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第一章・10
瞼を閉じてその効用に浸っていた英治だったが、伊予のように声を上げるほどではない。
「ただの目薬だ。これがどうして……、なんだって!?」
視界に入った天空に、英治は思わず声を上げていた。
星。
明るい星に、暗い星。
小さな星に、大きな星。
赤い星に、青い星。
降るような満天の星空が、英治の視野いっぱいに拡がっていたのだ!
「人間の肉眼でみられる星は、六等星までと言われていますが、これはそれ以下の星々も拾っているようです」
伊予の、柔らかな声が耳に心地よい。
英治の心は、その響きに落ち着きを取り戻した。
「なぜ、この目薬を注したらこんなに夜空が賑やかになったか、解かるかい?」
「それが……、僕には見当もつきません」
「猫印、とはよく言ったものだね。ネコは暗闇でも、ヒトの5,6倍はものが見えるというよ」
ここまで聞くと、伊予にも解かった。
この漢方の秘薬が持つ、もうひとつの効用が。
「この目薬を注すと、ネコみたいに暗闇でも見える、というわけですね」
「そうだ。だから、このように見事な銀河宇宙を見る事もできる」
ほぅ、と英治は感嘆の溜息をついていた。
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