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第二章 秘密の趣味
伊予に、またとないチャンスが訪れた。
英治に、食事に誘われたのだ。
「素敵な目薬のお礼を、ぜひしたいんだよ」
「お礼なんて。でも……、一緒にお食事はしたいです」
決まりだ、と英治は手をぽんと打った。
「何が食べたい? リクエスト、ある?」
「……」
「鹿久保くん。鹿久保くん?」
伊予の頭の中は、すでにロマンチックな英治との夕べに飛んでいた。
揺らめくキャンドル……、静かな音楽……、細かく爆ぜるシャンパン……。
「鹿久保くん!」
「は!? な、何でしょうか!?」
さすがは不思議ちゃんだな、と英治は苦笑した。
「では、コースはお任せでいいかい?」
「は、はい」
(大沢さんが僕のために、ディナーのことを考えてくれる!)
それだけで、伊予の胸は高鳴った。
その時だけは、英治は伊予のものなのだ。
ロッカールームで、壁に額をぐりぐり押し付け独りで悶絶していた。
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