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第二章・2
揺らめくキャンドル……、静かな音楽……、細かく爆ぜるシャンパン……。
想像通りのシチュエーションに、伊予はくらくらしていた。
(大沢さん、僕を殺す気ですか~♡)
「じゃあ、乾杯」
「は、はい。乾杯です」
シャンパンで喉を潤し、英治は指を組んだ。
「若い子は焼肉なんかがいいのかな、なんて考えもしたけど。あの目薬のことを思うと、こういう静かできれいな店がふさわしいと感じたんだ」
「あの、すごく素敵です」
英治は食事の合間にいろんな話をしてくれた。
経営のこと、余暇のこと、実家のこと。
今まで以上に深く深く英治のことを知る喜びに、伊予は倒れそうだった。
「すまないね。私ばかり喋ってしまって。鹿久保くんは、どう? 趣味とか、あるの?」
「趣味、ですか」
ある。
伊予は、コアな趣味を持っている。
だがそれは、英治に話せるようなものではなかった。
「あ、あの。コーヒーとか、好きです。いい店、知ってるんです」
「それはいいね。あ、だからかぁ。鹿久保くんが差し入れてくれる缶コーヒー、いつも美味しいもんね」
伊予は、原材料に香料の入った缶コーヒーは絶対に選ばないようにしているのだ。
香料が入ると、後味が濁る。
そんな風に考えていた。
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