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第二章・5

 タクシーを降り、伊予は賃貸マンションへ帰った。  ぽいぽいと服を脱ぎながらバスルームへ向かい、シャワーを浴びる。  湯上りの肌をバスタオルで拭きながら、全裸のまま、とぼとぼとクローゼットのある洋間へ進んだ。 「大沢さん、ごめんなさい」  そして伊予は、引き出しを開け、女性用の下着を取り出しブラを着けた。  その下の引き出しからは黒のストッキングを出して、穿く。  アイボリーホワイトのニットに、タータンチェックの膝上丈スカート。  最後に、サラサラの長い黒髪ウィッグを着けて完成。 「大沢さんの想い人は、僕なんです! でも、女装癖のある男だなんて知られたくないし!」  うわぁん、とすっかり女性に変身した伊予は、手のひらで顔を覆った。 「どうしよう。どうしたら、いいんだろう!」 『何か心配事でも? 私でよければ力になるよ?』  は、と困った時にはいつも掛けられる、落ち着いた声が伊予の脳裏によみがえった。 「マスター。マスターに、相談しよう!」  時計は、10時を少し回ったところだ。 『がらくた』は、0時までやっているので、まだ充分間に合う。  伊予はその格好のまま、マンションを飛び出した。

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