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第三章 危機一髪!
息を切らせて店内に入って来た女性を見て、ぽつんぽつんと残っていた男性客はみな彼女に見蕩れた。
サラサラの長い黒髪、華奢で色白な肢体。
膝上のスカートからのぞく、黒のストッキングが色っぽい。
だがその女性を見て、ウエイターの石丸だけはつまらなさそうな顔をした。
「マスター、鹿久保くんが来ましたよ」
「あれ? こんな時刻に珍しいね」
カウンター席に腰かけた伊予は、とりあえず落ち着こうとマンデリンを注文した。
「マスター、僕、悩んでるんです」
「よく悩む奴だな」
「この女装癖が原因で、困ったことになっちゃって」
「だからほどほどにしとけ、って何度も言ったんだ」
うるさいなあ、と伊予は石丸にキレた。
「大体、僕が女装を始めるきっかけを作ったのは、君じゃないか!」
そう。以前この喫茶店の開店三周年記念の余興に、石丸は女顔で小柄な伊予を女の子にしてマスターにお披露目した。
大いにウケたが、何と言うことだろう。
それ以来、伊予は女装が癖になってしまったのだ。
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