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第三章・2

「鹿久保くんはナルシストなんだよ。女装した自分を鏡に映して、悦に入ってるんじゃないの?」 「そんなこと、してない!」  実は嘘だ。  始めは石丸の言う通り、鏡に映すだけで済んでいたが、やがて人に見られる快感を求めるようになってきた。  今では会社のロッカーに女装セットを忍ばせ、駅の公衆トイレで着替えて電車に乗ることもしばしばだ。 「……で、その姿を大沢さんに見られてた、ってわけですね?」 「そうなんです……」  マスターは、温かいコーヒーを伊予に出しながら言った。 「でも、それはチャンスなんじゃないかなあ。今度電車で大沢さんに会ったら、思いきって顔を見せてみたらどうですか?」 「正体をばらせと!?」 「案外、好反応が返って来るかも、ですよ?」 「……」  黙ってしまった伊予に、石丸がチョコレートを一粒くれた。 「当たって砕けろ、って言葉が、確かありますよね」  うん、と伊予はうなずいた。 「当たって砕けてみる!」  一大決心をした伊予だったが、そう巧く話は進まなかった。

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