19 / 32

第三章・3

 夕刻の満員電車。  伊予は女装姿で人に揉まれながら、自分の浅はかさを後悔していた。 (よく考えたら大沢さん、ほとんど毎日残業してるし!)  彼が伊予に電車内で出会っているのは、本当に数少ない出来事なのだろう。  伊予も、毎日女装して電車に乗っているわけではない。  はぁ、と溜息をついた時、ウエストに触れて来る手のひらの感触が。 (痴漢!?)  しかし、伊予は余裕だった。  仮に痴漢だとしても、その手が前に伸ばされた途端あわてて去って行く。  これまでも、何度か経験済みだ。  女と思って手を出したら、股間に無いはずのものが付いている。  痴漢も驚いて退散する、というわけだ。  しかし、今日の痴漢はやけにしつこかった。  臀囲の丸みをじっくり撫でさすり、時に下から揉み上げる。 (ヤだな。感じてきちゃうじゃん……)  ふるりと震えた伊予に気を良くしたのか、痴漢の手は前に伸びてきた。 (ふふふ。馬鹿め)  伊予は、にやりとほくそ笑んだ。 (残念でした。僕は男ですよ~)  ところが痴漢の手は去るどころか、大胆に動き始めたのだ。

ともだちにシェアしよう!