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第三章・3
夕刻の満員電車。
伊予は女装姿で人に揉まれながら、自分の浅はかさを後悔していた。
(よく考えたら大沢さん、ほとんど毎日残業してるし!)
彼が伊予に電車内で出会っているのは、本当に数少ない出来事なのだろう。
伊予も、毎日女装して電車に乗っているわけではない。
はぁ、と溜息をついた時、ウエストに触れて来る手のひらの感触が。
(痴漢!?)
しかし、伊予は余裕だった。
仮に痴漢だとしても、その手が前に伸ばされた途端あわてて去って行く。
これまでも、何度か経験済みだ。
女と思って手を出したら、股間に無いはずのものが付いている。
痴漢も驚いて退散する、というわけだ。
しかし、今日の痴漢はやけにしつこかった。
臀囲の丸みをじっくり撫でさすり、時に下から揉み上げる。
(ヤだな。感じてきちゃうじゃん……)
ふるりと震えた伊予に気を良くしたのか、痴漢の手は前に伸びてきた。
(ふふふ。馬鹿め)
伊予は、にやりとほくそ笑んだ。
(残念でした。僕は男ですよ~)
ところが痴漢の手は去るどころか、大胆に動き始めたのだ。
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