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第四章・2

「美味い! 喫茶店に勤められるくらい、おいしいよ!」 「いえ、僕なんか。『がらくた』のマスターに比べれば」 「そうだったね。近いうちに、その店に連れて行ってくれよ」  はい、と言おうとして、伊予はやめた。 「いえ……、できません」 「どうして?」 「僕は痴漢に汚されちゃったんです。もう、大沢さんにふさわしい人間じゃありません」  おや、と英治は目の前の伊予を見た。  今時の不思議ちゃんと思っていたが、なかなか古風な面がある。 「そんなことないよ。痴漢に遭っても、私は君をそんな目で見やしないよ」 「でも……、恥ずかしいんですけど、僕、あの時すっごく感じてて……。大沢さんが止めてくれなければ、そのまま痴漢に許しちゃうところだったんです」  そう言って、また涙をこぼす伊予を、英治はそっと抱きしめた。 「お、大沢さん?」 「可愛いね、鹿久保くん。いや、伊予くんは」  じゃあ今度は、私が告白しよう。  英治は伊予をその腕に抱いたまま、話し始めた。 「電車で時々出会う、気になる人。まぁ、それは伊予くんだったわけだけど。ただ私は、その正体は男性だってことに気づいてたんだよ」 「え?」  私も少し性的に倒錯した部分があってね、と少し恥ずかしそうに英治は白状した。 「あんなに素敵に女装できる男性に、興味があった。男の娘、と言うのかな、今は。そんな子が、好きなんだ」 「大沢さん」 「英治、と呼んでくれないか。今だけは」  伊予の心臓は、口から飛び出すほどに鳴っていた。

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