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第一章・11

 思わず顔を見て、はっとした。  赤く染まった頬。  潤んだ眼。  しかし、その眼は涙をいっぱいたたえているのだ。  首を傾けた拍子にぽろりと大粒のしずくがこぼれ、凱は一気に酔いがさめた。  処女に泣かれたこともある。  しかし、それでも最後まで身体を交わらせてきた。  その涙は一過性のもので、事が進むにつれ嬉し涙に代わっていくことは充分解かりきっていたから。  容赦などしない。そんな意気地無しではない。  だが、怜也の涙はこれまでとは違う重さをもって、凱に訴えかけてきた。  硬くこわばったままの体。  震える声。  怯えた眼。  これ以上進むことがためらわれた。  これ以上いじめてはいけないと、心が警報を発してきた。 「怖いか?」  返事はなかった。  ただ、ぎゅっと瞑った眼から、涙がぽろぽろこぼれてきた。  ゆっくりと抑え込んでいた体を浮かせ、凱は怜也から離れた。 「ごめん、悪かった」  やっとの思いでそれだけ言うと、部屋を出た。

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