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第二章・2

 耳打ちするためにそっと顔を近づけると、昨日の事が思い出されるのか怜也の首が退く。  それでも軽く耳を引っ張り、凱は彼に囁いた。 「映画、観に連れてってやるよ。行こうぜ」  映画、と怜也は声に出した後、あわてて手で口を覆った。 「でも、外出許可は取ってないし」  だからダメだと、やんわりお断りするつもりの怜也。  だが、それは想定内の返事だ。 「抜け道から、こっそり出て行こうぜ。そんなもん、いらねえ」  なんて強烈な誘惑だろう。  返事ができずにおろおろしている怜也ににっこり笑うと、決まりだな、と凱は席を立った。 「午後、迎えに行くから着替えて待ってろ」  後は、さっさと食堂を後にした。    かわいそうな怜也は、午前中いっぱいかけて悩むに違いない。  だが、凱には自信があった。  絶対乗ってくるという、自信が。  幼い頃から一生懸命自分を追っていた怜也。  今回もまた、精いっぱい背伸びしてついてくるに違いないのだ。  そう。まずはデートからだろ。  凱は、何もかもが初めての怜也に気長に付き合うことにしたのだ。  いきなり押し倒したりすれば、泣かせてしまう。  だったら、泣かないように、自然に求めてくるように仕向けてやるのが俺の務めだろ。  デートなんてやったことがないのは、自分も同じなのだが。

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