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第二章・5

 別れ際、凱は改めて怜也と向き合った。 「今日はありがとう」  怜也の素直な、その言葉。  警戒心はすっかり解かれ、ただ無邪気に無防備に笑っている。  そっと頬に手を伸ばしても、なんのことやらといった風の顔が愛らしかった。 「キス、してもいいか?」  は、とその時初めて、思い出したように怜也は顔色を変えた。  しかし、頬に当てられた手を振り払ってはこない。  そろそろと顔を近づけると、瞼が閉じられた。  唇が、触れ合う。  合わせたまま、その体温を互いに感じた。唇の柔らかさを、互いに感じた。  それだけで、離した。  顔を離すと、怜也は意外そうな表情をしていた。  そうだろう、昨日はさんざん濃厚なキスを交わしたのだから。  それでも、嬉しそうに頬を染めている。  これでいい。まずは、はじめの一歩から。  多分これが、普通の手順なんだろうから。

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