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第二章・10
午後が思いがけず空いた。
体育の授業で使うはずだったコートが、怒り狂ったスズメバチに占拠されてしまったのだ。
午前中に使った生徒のひとりが、コートの脇に立っていた木をふざけて揺すり、人知れず掛けられていた巣を刺激してしまったらしい。
近づく者は全て攻撃する気で満々のスズメバチを駆除するには、奴らが寝静まる夜を待つしかない。
コートが使えない、となると、凱はとっとと授業をフケた。
今日は頭痛で欠席している怜也のところへ見舞いに行く方が、何万倍も魅力的だ。
かねてからの計画を実行するには、またとないチャンス。
手土産を持って、凱は怜也の元へと向かった。
「今日はいいもの持ってきたぜ?」
そう言って、掲げて見せた凱の手にあるものは。
「ワインなんて、そんな」
まだ未成年なんだから飲酒なんか、と慌てて手を振る怜也に無理強いはせず、一口だけ、とグラスを渡した。
本当に、一口分注ぐ。
「まず、香りを楽しむんだ」
もっともらしい事を言い含めながら、勧める。
恐る恐る口にした怜也は、その芳醇な味わいにすっかり心奪われてしまった。
そりゃそうだろう、と凱はほくそ笑んだ。
何か特別な時に開けようと思って大切にしておいた、とっておきの一本だ。
ただ、飲め飲めと煽りはせずに、黙ってグラスにワインをたっぷりと注いだ後、何気なくいつものようにソファに腰かけ写真集を開いた。
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