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第一章 うまくいかないけど、ちゃんと好きだから。

 秋の収穫祭を控え、町は活気にあふれていた。  祭りの準備に大忙しの大人たちだが、それは明るい喜びの色に満ちている。  そんな大人たちの楽しげな空気は、子どもたちへも伝染した。  何か素敵な、特別な出来事が訪れる予感。  幼い児童から成人間近の少年少女まで、その浮足立った心地に染められていった。  中でも、ここ私立城北高等学校の講堂は、その祭りの会場の一部として使用される。  生徒たちは皆、催しの開催を楽しみに日々過ごしていた。 「あぁ、楽しみだなァ。今年の収穫祭」 「やけに素直だね、凱」  凱と怜也は、昼休みの植物園でくつろいでいた。  「今年はさ、ブドウが豊作だったろ? 新酒が楽しみで楽しみで♪」 「未成年が飲酒しちゃダメだろ!」  固いこと言うな、とその白い頬に手を伸ばし、キスをしようと顔を近づける。  だが怜也は、ぷいとそっぽを向いてしまった。  誰がどこで見ているか解からない。  屋外で体を触れ合わせることを、怜也は嫌った。  本当なら、こうして二人でベンチに座っていることすら恥ずかしいのだ。  だが、そんな怜也も凱は好きだった。  恋人だからと、馴れ馴れしく擦り寄ってこない、初々しさを失わない純粋な怜也のことが大好きだった。 「さ、午後の授業が始まるよ。もう行こう」 「あ~、かったりぃ」  怜也に背中を押され、凱はしぶしぶ退屈な教室へ向かった。

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