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第二章・9
「おお! 化け鯨が現れたぞ!」
「おいたわしい姫様。あの醜い化け物の餌食になってしまうのね」
「ばぉ~ん」
ちょっと待ってよ、と劇にストップがかけられた。
演出担当に決まった山中が、凱に演技指導をつけてくる。
「もっと迫力出してよ! ばぉ~ん、じゃあなくって、バォーン!」
その叫び声に、お前のほうがよっぽど化け鯨に向いてる、と考えた凱だったが、女は怒らせると怖いので黙っていた。
「俺は本番に強いんだよ。本番にはビシッと決めるから、勘弁してくれよ」
「もう、しっかりしてよね。じゃあ、ペルセウスと化け鯨の格闘シーン、行くわよ」
本番を間近に控え、衣装や小道具も着々と準備されつつある。
英雄らしい派手な格好をした天知は、凱を踏んだり蹴ったり殴ったりしてみては、悦に入っていた。
なにせ、実生活で痛い目にあっているのだ。ここぞとばかりに逆襲してきた。
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