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第二章・10

 匠はと言えば、声が小さいと毎度怒鳴られながらも一生懸命ナレーターを務めていた。  声は小さいが、その表現力はなかなかのものなのだ。  役目を降ろされることなく、何とか周りについて行っていた。 「姫。もう大丈夫ですよ」 「あぁ、ペルセウス様」  そこで、天知が怜也を抱き上げる。  このシーンを練習するたびに、周囲からは二人を囃し立てるような声があがるのだ。  メドゥーサの楯で石と化した化け鯨として長々と横たわり、真横でそれを見せ付けられる凱の身としてはたまらない。 (怜也! 顔、近すぎ! もっと離れろ、拒否しろ、拒否!)  凱の心の叫びも、周囲には届かない。  明日が本番という頃には、天知と由良はお似合い、という実に不愉快な噂がまことしやかに囁かれるようになっていた。

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