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第三章・2
まず現れたのは、美しいアンドロメダ姫。
その麗しい姿に、子どもたちだけでなく大人までもが引き込まれていった。
「何と美しい」
「さすが、由良くん」
正体はバレバレで、怜也はもう恥ずかしくって仕方がなかったが、何とかがんばってアンドロメダ姫役を演じていった。
娘の美しさを、海のニンフより素晴らしいと傲慢な態度をとる女王・カシオペア。海神ポセイドンは激怒し、化け鯨を寄こして国を荒らさせた。
「バォーン!」
布でできた被り物をまとっているため、中の人が凱だとは誰も気づかない。
奇声を上げながら暴れまわる姿に、子どもたちはキャッキャと喜び、大人たちは腹を抱えて笑った。
(ちくしょう、覚えてろよ!)
目から涙まで流して笑ってやがったのは福田、と心の中の仕返しリストに名前を書き上げながら、凱は一旦下がった。
「さすが、本番に強い男!」
演出の山中まで笑っている。
やれやれ、と凱は暑苦しい被り物から顔を出した。
本当の本番は、これからなんだぜ。
淡々とナレーションを務める匠が、ちらりとこちらを見た。
ぐっ、と親指を立てて見せる。
二人の間にしか解からない、無言の言葉が交わされた。
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