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第一章・12
どうして。
どうしていつも、巧くいかないんだろう。
シャワーを浴び終え、タオルで体を拭きながら怜也はうつむいた。
タオルに顔を埋め、しばらくそのまま動かずにいると、後から後から凱の事が思い浮かんでくる。
『今夜はやめとこう。無理すっと、体に傷をつけちまう』
彼は優しい。
いつも優しくしてくれる。
でも僕は、その優しさに応えることができない。
『んだよ。キスくらい、いいじゃん。堅いなぁ、もぅ』
そんな言葉も思い出される。
真面目すぎるのかな、僕。
幼い頃は、真面目は美徳だったし、そう褒められると嬉しかった。
でも今の年齢になると、それはわずかに揶揄の響きを持って胸に刺さる。
「もっと、不真面目になればいいのかな」
例えば、自分から彼を誘ってみるとか。
頬が赤くなった。
できるだろうか。
でも、その考えはどんどん膨らんで怜也の頭をのぼせあがらせてしまった。
手早く身づくろいをすると、後はただ夢中で長い石段を駆け下りて行った。
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