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第一章・14

 一杯だけだぞ、と凱はグラスを準備し怜也のために注いでやった。  自分にも用意し、カチンと音を立てて乾杯した。 「ふふ。何だか楽しい」  どういう風の吹き回しだ、と凱は内心穏やかではなかった。  ほんの数時間前まで、他の女と一緒にいたのだ。  怜也が勘付いているのかと、疑った。  しかし、上機嫌でグラスを傾けている姿を見ると、そういうわけでもないらしい。 「おい、ちょっとペースが速えぞ。もっとゆっくり飲め」 「大丈夫、大丈夫」  あっという間にグラスを空にしてしまった怜也。  もう一杯とねだってくるので、グラスに半分だけ注いでやった。  さすがに酔いが回って来たのか、とろんと力の抜けた眼で、凱を見るようになっている。  しかし、そんなまなざしもまた色っぽい。 「ね、凱」 「ぅん?」 「今夜、泊まってもいい?」  ごくり、と口に含んでいた酒を飲んだ。  まさか、怜也の方から誘ってくるなんて!

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