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第一章・17
混乱する頭を抱えているというのに、ばたんばたんとバスルームから凱が出てくる音がする。
怜也は咄嗟にピアスを元のように枕の下に収め、慌てて眼を閉じ寝たふりをした。
「お待たせ! ……って、あれ?」
すぅすぅと寝息が聞こえる。
そっと揺すってみても、起きる気配がない。
それもそのはず、寝たふりなのだから。
「そりゃねぇぜ、おぃ……」
どさり、と凱が腰をおろし、ベッドが軋んだ。
それを間近に感じながら、怜也はただ必死で寝たふりを続けた。
凱が、僕の知らないうちに、女の子と。
涙をこらえるために、口の中で舌先を噛んだ。
こうすると、涙が止まる。
涙を止めるために、怜也は黙ってただ舌先を噛んでいた。
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