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第三章・5

 そろそろ夏だ。暑くなってきた。 「あぁ、クソ暑い! やってらんねえぜ!」  凱はイライラとした声を上げた。  周囲がわずかにびくりとすくむ。  室内は日陰とはいえ、人が多いとそれなりに蒸し暑い。  こんな時は、怜也の居る場所を探すに限る。  あいつは涼しい場所を探すのが巧い。  まるでネコみてえなヤツだ。  胡桃、ニワトコ、そして、糸杉。  大きな木を探して、その木陰を覗いてみる。  今日は、オークの木陰に怜也はいた。  生い茂った深い緑の梢の下に入ると、嘘みたいに汗が引いてゆく。  静かに本を読む怜也。  そのまんま、画になりそうな風景だ。  読書の邪魔をしないよう、そっと隣に座る。  人の気配を感じた怜也が、ふとこちらを見るが、それが凱だと解かると安心したように微笑み、本を閉じた。  そよりと頬をなでる風が心地よい。  かすかに鳥の鳴き声が聞こえる。  穏やかな日。  ここでこうして二人並んでいるだけで、満たされた気分に浸ることができる。

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