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第一章・9

「だけどよ」  だからこそ、こんな間近に、しかも丸一日一緒に過ごせるというのに、キスひとつできないというのは身悶える。  同じテントの中に入るというのに、その体に指一本触れることができないというのは悶絶する。 「だよねぇ」  凱の独り言に、同じ班の匠がうなずいてきた。 「お前、いつの間に!」 「みんな、由良くんを狙ってるよ。この実習で、ぐっと距離を縮めようって」 「何だとぅ!?」 「一ノ瀬くん、用心しないと誰かにさらわれちゃうよ? 由良くんの事」  ぐぬぬ、と凱は怜也の姿を探した。  こんなに重い薪など運べないと言っていたあの天知が、にこやかに怜也の抱える薪を受け取っている。 「あの野郎、調子のいい事やりやがって」

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