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第二章・5
往生際悪く、もがこうとする怜也をしっかり両腕で掴んで座り込み、体に引き寄せた。
冷たい夜の海水が、日に焼けて火照った体に心地よい。
息を弾ませる温かな怜也の体に、海の水をかけてゆるりと撫でた。
滑らかな肌に付いた砂を、水で丁寧に落して清める。
ふいに、怜也が向き合ってきた。
月の光に浮かび上がった顔は、いつのまにか少し大人びた表情をするようになっていた。
「……何?」
「凱。僕のこと、好き?」
どこかで聞いたような言葉。
怜也の部屋で水浴をした時に、凱が話しかけたせりふだ。
大好きだ、と言おうとして、もう一度言葉を選びなおした。
「愛してる」
ふるっ、と怜也の瞳が揺れたようだった。
唇がわずかに動いて、小さく何か言ったが聞き取れない。
嬉しい、か? ありがとう、か?
もう少し大人になったら、俺にも同じ言葉を。
俺にも、愛してる、と言ってもらいたい。
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