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4.漫研メンバーの策略その②

 グレーにピンクのラインの入ったノースリーブシャツにアームカバー。そして同じ色のミニスカート。更に同じ色合いのニーハイソックスを穿いてはピンク色のツインテールのウィッグに僕は、漫研の隅のカーテンの中で着替えて見せる。リアリティを出すために(いつものことだが)どこから調達してくるのやら、女物の下着も下に穿いた。毎度のこととはいえショーツが窮屈で、僕は内股になってカーテンから出ては漫研メンバーを喜ばせる。 「栞きゅん!! 今日も抜群に似合ってますぞ!!!」 「テトちゃんハァハァ! テトちゃんが画面から飛び出してきたみたいだよう!!」 「男の娘萌えーっっ! うおお燃えてきたぜ!!」 「……で、乱交ごっこって具体的にどうするわけ?」  ひとしきりその場でターンして全身を見せてから、腰に手をやって強気な猫目で三人を見る。三人は眼を見合わせてニマーッと笑うと、 「ちょっと待ってね栞きゅん、役割分担でじゃんけんするから」 「役割分担?」 「そう、杉田氏を呼びに走る役一名と、乱交ごっこの男役二名ね」 「ああ……そう、」  死んだ目の色で奴等が血眼になってじゃんけんするのを眺める。三人が手を出してあいこになる度彼等は一喜一憂して、その内やっと『三回勝負、三回勝負だから!!』とかなんとか言いながらもじゃんけん大会が終了すると、どうやら杉田くんを呼ぶ係は下っ端の前髪野郎に決まったらしい。部長のメガネ野郎、副部長のソバカス野郎はじゃんけんに勝った喜びに咆哮をあげているからうざったい。 「ねえ、早くしようよ。僕、どうすればいいの?」 「ふっへっへ、では栞きゅんはそこのソファーに仰向けに寝転がって?」 「うん、」  ごろんと言われた通り、ソファーの上に仰向けになる。と、徐にメガネが僕の上に圧し掛かってきて『うわ』と声をあげた僕も空しくノースリーブシャツのボタンを半分ほど開け放ってくる。 「ハァハァ、全部脱がすなど邪道の極み! 着衣プレイこそコスプレの頂点なり!!」 「えっ、なにすんの、ちょっ、わっっ!!?」  ぼろん、と。既に何故か勃起している思ったよりも立派な眼鏡の性器が空気に晒された。晒されたと思ったら、僕のぺったんこな胸の真ん中にそれをズリ、と擦りつけて……そう、汚いそれを僕の柔肌で、慰め始めたから僕も焦る。 「はっ、話が違うじゃないか! フリだけだってお前ら!?」 「だからぁ、擬似セックスって奴デスヨ栞きゅん♡ アーッ栞きゅんのおっぱいやわらかー♡♡」 「ちょっ、退けろ! ちょっとソバカス!? 見てないでコイツどけっ……ひゃっ!?」  傍で見ていたソバカスに指図しようと顔を上げたところにもう一本の勃起性器が現れて上ずった声をあげる。ソバカスだ。ソバカスが奴のお粗末な性器を晒して、僕の頬っぺたにそれを押し付けてきたのだ。むわっと初めて感じる性的な雄の匂いに、僕はたじたじでいつもの強気もどこそこ。涙目になって助けを懇願する。 「やぁっっ、もっ、やだぁっ!! お前ら、ばかぁっ! やりすぎっっ……ぐすっ」 「半泣きの栞きゅん萌えますなー♡ でも、それもこれも杉田氏とのためですぞ? ほらっ、乳首コリコリ♡」 「ひっ、んっ♡ やだぁ、乳首に先っぽ擦りつけるなぁ!」 「はぁはぁ、栞きゅんのほっぺやーらか♡ く、唇も……ねえ中に銜えてとは言わないから、ぷりぷりの唇も使って、いいよね?」 「むぐぅっ!? んっ、くさっっ!? ちょ、ぼく、ファーストキスもまだなのに、ぼく、ソバカスのおちんちんとキスっっ!?」 「OHソバカス! やりすぎは良くないぞ? 唇はNGだNG、ってもう遅いかw ふはっ」 「くっ、はぁっっ……もおっ、お前ら覚えてろよっ! 杉田くんが来たら……お前ら、お前らなんか杉田くんにボコボコにされちゃうんだかっっひゃんっ♡」 「おおおっぷりっと乳首勃ってキター!? 栞きゅん、乳首ズリで感じちゃった♡???」 「あっ、あっ、あっ、やっっ……もお、ほんとうにっ……」  とかなんとか大騒ぎしているところに、下っ端の前髪野郎がいつの間にか、部活中だった杉田くんを急いで呼んで引っ張ってきたらしい。廊下から人ふたりが走る音が聞こえて、(杉田くん!)と心の中で悲鳴を上げたそのときだった。 「おっ、おっ、おっっ♡ 栞きゅんっっ♡♡ 杉田氏が遅いから、我等ももうっっ♡♡」 「はっ、はぁっ、はっ、栞きゅん……もう我慢無理っ、出すよっっ!?」 「えっ、『出す』って!? ふぎゃっっ!!?」  どぴゅ、ぴゅるぴゅるっっ♡♡  と、二人分の精液が、僕の顔と胸元に思いっきりぶっかけられてしまった。更に次の瞬間に漫研の扉が開いて、そこには野球部ユニフォームのまま急いでやってきた杉田くんが、 「水谷っ! 大丈夫かっっ、漫研の奴等が暴走して止まらないって聞い、て……」 「ふっ……ぅえ、す、杉田くぅん……ぐすっ」  最早これは演技じゃない。男二人にぶっかけられてコスプレ姿で、僕は本気で泣きべそをかいている。杉田くんは白く固まって、ギギギとブリキ人形のように顔を振っては僕と、僕に圧し掛かったオタク共を順番にみやる。暫し沈黙、その内メガネが、黙りこくっている杉田くんに声をかける。 「す、杉田氏? ふへっ、一足先に我等、栞きゅんを頂いてしまいましたぞ♡」 「……お前ら、」 「はい?」 「お前らああああっっ!! お前ら暗いけど、根はいい奴だと思ってたのに、お前ら!! 水谷のことやっぱりそう言う目でみてやがったのか!! コスプレもこの時のために、無理矢理水谷にさせてたのか!!?」 「えっ、あっ、す、杉田氏、お、おちついて……一旦落ち着きましょうぞ、」  あまりの大声に、怒った杉田くんの迫力に慄いたメガネが慌てふためいて言い訳をしようとするから、泣きべそをかいていた僕だがすかさずガバッと立ち上がって、ダダッと杉田くんの方へ精液塗れのままで駆け寄る。 「杉田くん待って! 皆は悪くないんだ!! だって、だって僕が断りきれなかったからこんな、」 「水谷は黙ってろ」 「っっ!!」  あの、あの優しい青春少年の杉田くんに『黙ってろ』何ていわれたのは初めてで、僕は思わずドキッとしてしまう。強気な杉田くんに、命令されたっていうのにドキドキが止まらなくなる。でも本当に、協力してくれた(?)漫研メンバーの元に杉田くんは、本当に半殺しにでもしそうなふっキレた暗い表情で歩み寄ろうとするから精液塗れで失礼するが、杉田くんのユニフォームの腕部分にすがりついて涙声で僕は主張した。 「だっ、黙ってられないよ! 本当に、皆は悪くないから!」 「……水谷お前、」  すると杉田くんの顔が、優しげに、心配げなものに戻って僕を見る。肌蹴た胸元、精液の付いた乳首周りと唇。その性的な姿に杉田くんは、次の瞬間ドクンっっ!! と、股間を反応させてしまったみたいだった。(うっ、水谷がこんなときなのに俺!!)という台詞が顔に思いっきり出ている杉田くんは顔を真っ赤にして少し前のめりになって、それでホッとして力が抜けた僕の腰を、しかし真っ赤なままで支えてくれる。ばっとそのまま僕を持ち上げて……お姫さま抱っこにしてくる。 「ひゃっ」 「とにかく水谷、お前がそう言うなら……今回は見逃してやる。汚れた顔と体、洗いに行こう」 「えっ、えっ!? でも杉田くん僕こんな格好で!!?」 「誰も、こんな格好のお前を見ても水谷だなんて思いはしねーよ、安心しろ」 「で、でも」  でも杉田くんは、コスプレしてウィッグを被って化粧までした僕を一瞬で、あの日見破ってくれたじゃないか。思うとそれが場違いに嬉しくて頬を染める。杉田くんにお姫様抱っこされるのがうれしくて、顔を見られるのがいやで、人気のない放課後三階の廊下でぎゅっと杉田くんに縋りついたまま、男子トイレまで二人で行く。 「ふうっ、誰とも会わなかったな」 「……うん、」  男子トイレに着くと杉田くんが、首にちょうどかけていたタオルを水道で濡らして、それから僕の方を向く。 「あっ、これ。俺の使いかけのタオルだけど……水谷、体と顔、拭いてやっても良いか?」 「ん……良いよ、お願いします」  本当は、逆なのだ。杉田くんのタオルだなんて大歓迎なのだ。そっと優しく杉田くんは、まず僕の顔を拭う。やさしくやさしく、壊れ物を扱うようなその仕草が繊細で、彼のちょっとだけデリケートな内面を表しているようだった。それから……杉田くんが唾を飲むこむ。 「身体……む、胸も拭くからな?」 「うん、」  言って真っ赤な顔で杉田くんは、僕のプクリといやらしく勃起した桃色の乳首にタオルを当てる。こす、コスコス、と柔らかにそこを刺激するから僕は、 「ぁっ♡ ん……♡」 「み、水谷……」 「はぁっ♡ 冷たくてっ、杉田くん、きもちいい……」  ふざけたみたいなピンク髪のコスプレ姿で、僕は『はぁ♡』と語尾にハートマークを浮かべてうるうると杉田くんを見上げる。僕の胸元、ぷるぷる撫でている乳首に釘付けだった杉田くんは一瞬ハッとして、僕の美少年顔を見上げてはドカッと更に顔を赤くした。 「みっ、水谷!! お前、ほんとうに、そうやって無防備なお前も悪いっていえば悪いぞ!!?」 「え、むぼうび?」  態とキョトンと小首を傾げて、小リスみたいな表情で唇を少し尖らせる。と、『うっ』と杉田くんが前のめりになって、僕の胸元にタオルをぐいっと押し付けて、 「悪ぃっ! あと、自分でやってくれ!!」  そう叫んでは前のめりのまま、コスプレ姿の僕を独り置いて、ダッシュで二人きりだったトイレから、走り去ってしまったのであった。 「……むぅ」  取り残されて杉田くんのタオルを見て、すん、とその匂いを嗅いでは僕は、精液の匂いになってしまったそれに少し笑う。 「杉田くん、勃ってたよね?」  独り言だが、そうその通り。杉田くんは僕に興奮して、確かに彼の性器を勃起させていた。これは大きな進歩だ。あいつ等……本当にボコボコにされちゃえば良いのにとはひととき思ったけれど、あいつ等やるじゃん? 唇のある意味でのファーストキスも、奪われ甲斐があるってものだ。 「ふふ♡ 杉田くん……もう少しだね、もう少しで僕達きっと」  本当の両想いになって、本当にきっと結ばれる時が来るんだね。そう思って男子トイレでニヤニヤしていると、その内心配して(じゃなくて本当は野次馬根性で)漫研メンバー三人が、僕独りのトイレにそっと、僕のことを迎えに来たのだった。『栞きゅーん』『どうでしたかな?』『あれっ、杉田氏は?』などというメンバーの声も上の空で、僕は独り、明るい二人の未来を思って恍惚とする。

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