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6.漫研メガネは体育委員
「はああ、なんでだろ」
昼休みの漫研部室で、今日は昼休みだからコスプレはしていない制服姿の僕はソファーでもってまた溜息を付いていた。漫画の原稿に向かっていた、前回僕を良いようにした二人プラス一人の部員達が、机から顔を上げて首を傾げてみせる。
「どうしたんですかな、栞きゅん」
「うーんそれがね……この前お前らの作戦で僕、あの杉田くんを勃起させるまではいったんだけど」
「あっはっは、そりゃー精液塗れでおっぱい丸出しの栞きゅんで、勃起しない男はいませんとも!」(※個人の感想です)
「それはそうなんだけど。それから杉田くん、僕にメロメロリンになるかと思いきやね、ずっと余所余所しくって」
「杉田氏は青春少年で、とびっきりの照れ屋さんですからなー」
「やっぱり杉田くんの奥手が悪いのか……多少強引にでも、また二人っきりになって不可抗力的に誘惑した方がいいのかな?」
「OH栞きゅん! それならば我にちょうど良い作戦がありますぞ!!」
「何、メガネ?」
「ふっふっふー。我って実は、クラスで一番面倒な体育委員を押し付けられましてな?」
「……(なにそれイジメ?)」
「まあ責任感の強い漫研部長の我に、重大責務を任せたい気持ちは分からんでもないですがぁムフ」
「……(結果オーライかよ)」
「とにかく午後の授業は我と栞きゅんのクラスの合同体育じゃないですか! そこで体育委員でもある我の力を発揮いたしますので!!」
「体育委員の力ってナニ?」
「まあそれは、その時になってからのお楽しみ……栞きゅんはサッカー授業をフツーに受けていただければ宜しいですぞ」
「げっ、今日サッカーかよ! 僕、サボろうかな」
「NO! それはいけませんぞ。我の作戦で、杉田氏と急接近したくはないのかい!?」
「むう、」
と、いうことで午後の授業。ヘロヘロになりながら体育で役立たずの僕は、体育教師に言われるがまま(『走れ水谷ぁ!』というスパルタである)走り回ってたまにからかい混じりにボールをパスされてはオロオロして、その度僕を避けているはずの杉田くんに助けて(ボールをパスさせて)もらっては、『杉田くん、優しい♡』とハートを飛ばしながらもとにかくやっと、午後の授業を乗り越えたのであった。二クラスの男子皆で整列をして、それから体育教師が笛を鳴らす。
「よーし、今日の授業はここまで! 体育委員、片付けは頼んだぞ」
「「「はーい」」」
あれ? そういえばメガネのいってた作戦って何だったんだろう。思ってキョト、と首を傾げて、それからチロリと隣の列に並んだメガネを睨んだときであった。メガネがグッと謎に親指を立てて僕を見て、それから各々解散し始めた生徒達の中で『あー』と声をあげる。
「今日は片付けが多いですなー、そうだ! 杉田氏、栞きゅ……水谷くん、スコアボードを体育館倉庫まで、運ぶ手伝いをしてはくれませんかな?」
「「えっ」」
「オホン、頼みましたぞ。あー忙しい」
「「……」」
そういうことか。思ってここ二日挨拶くらいしかしていない杉田くんと目を合わせると、パッと逸らされる。でも、責任感が強く根から優しい杉田くんだ。ゴホ、と不自然に咳払いをして、僕から目を逸らしたまま、僕に声をかけてくる。
「そういうことなら……水谷、仕方ないな。ちょっと運ぶ位手伝うか」
「っうん!」
久しぶりに普通に声をかけられたのが嬉しくて、僕は声を弾ませてニコニコしてしまう。体操服のTシャツと短パン姿で僕と杉田くんは、二人でガラガラとスコアボードを倉庫の方へと運び出す。皆が帰る校舎の方向とは逆の道を、杉田くんと二人きりで歩む。杉田くんはさっき僕に声をかけたきり、やっぱり気まずげに僕から顔をそらしたままで、僕はとても寂しいと感じる。でもそれもこれも、僕と杉田くんの友人関係を一旦はぶっ壊してでも……と思った僕の計画通りと言えばそうなのだ。そっと僕は、杉田くんに話しかける。
「杉田くん、」
「……なに?」
「やっぱりあれから杉田くん、僕のこと……男同士で漫研であんなことしてたの見て、気持ち悪くなっちゃったの?」
「そっ、そんなんじゃねーよ。大体水谷は悪くねーだろ」
「でも杉田くん、最近全然僕のこと構ってくれないんだもん。僕、寂しいよ」
「水谷……俺は、だって……」
杉田くんは(僕には知れぬことだが)、僕出演の夢で勃起したことに、とりわけ今日は罪悪感を感じているらしい。口を濁す杉田くんに内心(やっぱり、意気地無し……)などと僕が悪態をついていることを知らぬ杉田くんは、体育館倉庫前に着くと一旦顔を上げ、僕に向かって苦笑いをした。
「ワリッ。明日からはな、きっと俺もお前に普段通り接するから」
「明日から?」
「とにかくコレ、中に仕舞っちまおうぜ。スコアボードの置き位置はかなり奥の方だったよな」
「……うん」
僕はと言うと不満げに、ガラガラスコアボードを後ろから押す。メガネあの野郎。二人っきりにはなったけどこんなの急接近とは言えないじゃないか。おもって後で蹴りでも入れてやろうかと考えて、スコアボードを既存の位置に収めたときであった。それは突然、二人の背後から音を立てた。
ガラガラ、バタン! ガチャガチャ!!
「「えっっ」」
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