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第3話
チャイムが鳴り、号令が終われば一瞬で校舎全体が騒がしくなる。お待ちかねの昼休みが始まった。
「オラ!田崎 、走れ!」
「席取り頼むぞー!」
「はいはい、行ってきますよ!!」
坂内 と溝口 の声を背に、田崎がダっと駆け出していく。向かう先は食堂だ。
在籍人数に対して食堂の座席数が少ないこの高校。久住 たちはいつも、一つ前の休憩時間にじゃんけんをして負けたやつが座席を取るためにダッシュする決まりになっている。今日の敗者は田崎。因みに昨日の敗者も田崎。そう、何を隠そう田崎は鬼のようにじゃんけんが弱かった。
田崎が座席を確保してくれるため急ぐ必要はないのだが、そこは健全な男子高校生、なるべく早く腹を満たしたいため三人は早歩きで廊下を進む。食堂に着いたら食券を買う。坂内は唐揚げ定食、溝口はラーメンとカレー、久住は少し迷った後日替わり定食を選ぶ。
三人はそれぞれ目当てのものを受け取り、田崎がとってくれた席へ向かった。
「田崎、メシ行ってこいよ。」
「いやーそれがさ。」
溝口の言葉に田崎がポリポリと米神を掻く。
「財布、忘れた⭐︎」
テヘ。なんて言って舌をペロリと出す田崎。可愛らしい女の子ならいざ知らず、ただの男子高校生のドジなど求めてもいない三人は、ツッコむのも面倒だと溜息をつきながら自分たちの財布を覗く。
「俺、90円。坂内は?」
「60円。溝口は?」
「………20円。」
…………男子高校生の財布なんてそんなもんだ!
いや言い訳をさせてほしい。月末が近いからだから。いつもいつも寂しいわけじゃないから。そう、ちょっと今月遊びすぎただけで、ちょっと今月食堂使いすぎただけで、そう。そう。普段はもうちょっと入ってるからっ!
何はともあれ、かき集めたなけなしのお金は全部で170円。これっぽっちじゃ、一番安いメニューである蕎麦も買えやしない。
田崎は、大袈裟な身振りで頭を抱えた。
「くッ、俺がじゃんけんが弱いばかりにッ!」
「死ぬな田崎ッ、簡単に諦めてんじゃねーよッ!」
「溝口…!頼む。昼飯分けてく、」
「さっ、ラーメン伸びるから俺は先食べるわ。」
「みぞぐちぃぃぃぃ!!!」
「おいおい溝口、お前ってやつはホント冷めてんなぁ。」
「坂内…!頼む、唐揚げ一個でいいか、」
「やっぱ唐揚げは熱いうちにだよな、いただきまーす。」
「ばんないぃぃぃぃ!!!」
「お前ら、容赦ねーな。」
「く、久住ッ…!俺にはもうお前しか、」
「じゃ俺も食うわ。」
「ほんッとなんでお前らと友達やってんだろーな、俺は!!?」
田崎は心の叫びと共に天を仰ぐ。
男子高校生にとって昼飯は生命線。腹を空かせた田崎には申し訳ないが、久住たちもまた腹を空かせた獣だ。一口たりとも取られないよう必死に守る。
そんな本人たちだけが真剣で周りから見たら馬鹿みたいな戦いに、突如鶴の一声がかかった。
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