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第4話

田崎(たざき)、よかったら俺が貸そうか?」 田崎、溝口(みぞぐち)坂内(ばんない)が突然の乱入者に驚きその顔を凝視する。久住(くずみ)は、背後から聞こえた吾妻(あづま)の声に、口に入れたばかりの白米を噛めずに飲み込んだ。友人といる時に吾妻が久住に声をかけるのは、これが初めてだった。 久住の知る限り、三人と吾妻が友達らしい会話をしていたことはない。まだ入学してから半年も経っていないとはいえ、誰がどう考えても彼らはただのクラスメイトだ。そんな関係性でお金を借りるのが気まずくて断ろうと田崎が口を開くと、「その代わり」と吾妻が言葉を続けた。 「ここ、座ってもいいか?」 そう言って自分を見た吾妻に、久住は殆ど脊髄反射で答えていた。 「あ、おう。」 「サンキュ。はいコレ」 吾妻は久住の隣にトレーを置くと、有無を言わせず500円硬貨を田崎の掌に押し付ける。微妙な顔ながら、一応win-winなんだよな、と自分を納得させた田崎は礼を言うと券売機へ向った。 机を挟んで片方に椅子が二脚、もう一方にベンチが一脚あるこの四人席。ベンチに座っていた久住は溝口の方へ寄って、空いたスペースに吾妻が座る。そうして食事を再開し、一分も経たないうちに、久住は相席の許可を出したことを後悔した。 「初めて食堂来たんだけど、座れそうなところなくてさ。相席するにも知らない人ばっかだし、助かったよ。」 「ここ席少ないから。次は食券買う前に席取った方がいいぞ。」 「そうする。」 「………。」 「………。」 元々口数が少ない久住はともかくとして、普段から騒がしい二人がすごく大人しい。ガツガツ掻きこむわけでもなく、ただ淡々と箸を口に運び続けている。さっきまでの騒がしさはどこへ行ってしまったのか。久住は二人がこれ程静かに食事できることを初めて知った。…別に今知りたくはなかったが。 久住と吾妻だけがぽつりぽつりと会話する気まずい空気の中、三人が思うことはただ一つ。 田崎(バカ)、早く帰ってこい!!! 「あー、久住のって定食?」 「そう日替わり定食。親子丼、美味いか?」 「思ってたより美味しい。」 「俺まだ食べたことないわ。」 「そっか。」 「おう。」 「…………。」 「…………。」 「…………。」 「…………。」 「あれ、なにこれお葬式?」 「田崎おかえりィ!!」 「よく帰ってきたな田崎ィ、愛してんぜッ!!」 「え、なにこわキモイキモイキモイ。」 二人は、大盛りの焼きそばを手に帰ってきた田崎(バカ)をそれはもう熱烈に歓迎する。トレーを受け取り机に置く溝口と、椅子を引いてやる坂内に田崎の鳥肌が立つ。明らかに田崎が困惑しているのは久住と吾妻にも分かってはいたが、二人もまた田崎の帰還に喜びを抑えきれなかった。 「おかえり。」 「お腹いっぱい食べろよ、田崎。」 「待って二人までなんか優しいんだけど!なに!???」 その後しばらく四人に持ち上げられた田崎は、はてなマークを飛ばしながらようやく飯にありつけたのだった。

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