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第4話

そんなこと考えたこともなかった。悠人から離れる。離れたことがないからわからないけど。 でも悠人が笠井を選ぶなら俺は離れないといけない。 俺がいる位置に笠井がいる。 『岳、愛してるよ』 それさえ言ってもらえなくなる。抱いてくれなくてもいい、そばにいれるなら。そう・・・思ってきたのに。 「まあ、考えといて。じゃ」 ポンと置かれた手を見た。その手で悠人を抱きしめたんだ・・・ 胸の奥が刺されたようにズキッと痛んで押さえた。差し込む痛さからなのか・・・目の奥が熱くなって顔を覆った。 俺には、悠人しかいなくて。でも悠人には沢山いる。そのうちの・・1人。 ただ、幼馴染みという特権だけでそばにいた。セックスを覚えたばかりの中学生は馬鹿みたいにヤリまくって他に相手が出来てからは俺を抱かなくなった。 そっか。あの時、終わってたのか・・・ 俺、こんなだし離れて行けなかったんだよな・・・ 思うところは腑に落ちて止まらない涙に、胸が差し込んで痛みを抑えるように身体を丸めた。 ****** 「どうした?こんなとこで」 中庭のベンチ。数分前・・・笠井に悠人とのことを聞いた。 「岳、笠井と知り合い?」 笠井の名前が悠人の口から聞こえて・・・悠人の顔を見上げた。 「・・・知ってる程度だけど」 悠人はもちろん知ってる・・・よね。 「なんか・・・言われた?」 こういう場合は俺から言うべきなのか?わからない・・・けど・・・ 「いや、別に・・・」 悠人の口から聞きたい。 終わりにするなら。あ・・・もう、終わってるのか・・・ 「今日、悠人んち行ってもいい?」 今日で最後にするから。笠井・・・ごめんな・・ 「泊まる?」 「うん・・・」 「おじさんに連絡な」 「わかってる」 「岳、なんかあった?」 「え?」 「顔色悪いから」 「な、何もないよ」 「そっか・・・」 隣に座った悠人の香水の匂い。この匂い・・・「好きだよ」って言ったらずっと変えずにつけてくれてて。 どうしよう・・・まだ、こんなに好きなのに。 俺の頭の上は俺の気持ちと逆さまな・・・雲のない青空が広がっていた。 悠人が部屋のカードを差し込む。そのカードと同じものが俺のポケットの中にある。 これも、返さなきゃ・・・な・・・1つずつ終わらせていくみたい・・ パタンをドアが閉まると腕を絡めるようにスルリと悠人の腕が腰に回った。引き寄せられると、同時に悠人の匂いがきつくなって唇が合わさった。 キスは好きな人とするって言ってたじゃん・・相手は俺じゃない。でも今日だけ、この部屋を出るまでは俺の悠人。 リップ音を立てながら、唇を離す。 「岳・・・好きだよ」 悠人・・・口癖になってる?もう言わなくていい。胸に手を当ててそっと押した。 「岳?」 「お、俺、お腹ペコペコ!なんか作るわ!何食べたい?」 「あ・・・なんでもいいよ、岳が作ってくれるなら」 さほど美味しくないのに・・いつもそう言ってくれて・・・ありがとう・・・ ニコって微笑んで返事をした。 「岳、中庭のベンチで・・・泣いてたろ?なんか・・・あいつに言われたか?・・」 悠人はよく見てる。 「コンタクトがずれて痛かったんだよ」 冷蔵庫の中を確認しながら・・・でも悠人の顔は見ない。 泣きそうなんだよ。精一杯、我慢してる。 「そっか・・・手伝おっか!?」 「うん!」 並んでキッチンに立つ。腕に当たる体温を感じながら・・・ 好きなままいていい?何度も何度も心の中で繰り返した。

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