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第5話
知らない奴からのメッセージ。不審に思いながら開いた。
『今朝ぶりだね、渡辺君。お昼に南館の階段下に来て』
今朝ぶり?今朝会ったのは連れ込んだ奴と、岳だけ。当然、連れ込んだ奴だ。
なんで、連絡先・・・先に食堂に行くように岳に伝えて、南館に向かった。
薄暗く、人気のない階段下に着くと、今朝俺を睨みつけて帰って行った奴がいた。
「渡辺君」
跳ねるような声の主にため息を吐く。
「なんでお前がここにいるんだ?」
「そんな怖い顔しないで、俺で気持ちよくなったくせに」
気持ちよかったかどうかなんて酔ってて覚えちゃいない。
「俺と付き合うって話、考えてくれてる?」
はぁ?
「誰と誰が付き合うって?」
凄みをかけて言い放った。
「そんなに、睨まないでよ・・もちろん俺と渡辺君だけど?」
「そんな話はどこから湧いてきたんだよ」
「昨日、俺に突っ込んでる時に言ったよ?考えるって・・・忘れたの?」
そんなことは絶対言わない。俺には岳がいれば他の奴は要らない。
「君、最底だよね・・・誘っといて乗っかって来て気持ち良くなったくせに追い出すし」
まあ、ヤれればいい。岳に手を出さない為の手段だからな。最底でもなんでもいい。
「考えてもらうから。俺は欲しいと思った物は絶対手に入れるから。どんな手を使ってもね」
何言ってるんだか。頭おかしんじゃねーの。
「それと、身辺綺麗にしてよね。鬱陶しいのがいるのは気に要らないから」
身辺?鬱陶しい?
「俺はお前とは付き合う気なんてサラサラねーし!お前、勘違いヤローかよ。2度と話しかけてくんな!」
「ふーん・・・そう。でも君は俺と付き合うことになると思うけどね。今日はこの辺でね。また、よび出すから」
頬をするっと撫でて嫌味な笑顔をこ残して去っていった。
「ご馳走さま」
手を合わせる。
「お粗末さま」
そう答える。キッチンに食器を運びレバーを上げた。
「岳・・・」
後ろから抱きしめられる。腹で合わさった手を見下ろした。
この手で笠井を抱いたんだ・・・ー目頭が熱くなって泡だらけの手で拭えない自分にまた涙を誘った。
おさまれ・・・泣いちゃダメだ・・
「岳?」
覗き込まれて顔を逸らす。
「どうしたんだ?やっぱりなんかあったんだろ?」
そう、言わせる悠人も思ってることがあるんじゃないの?だから聞くんだろ?
でも・・・聞けない。聞いたら終わってしまう・・
俺から終わらせたほうがいいの?・・・頬を伝って落ちる涙を拭わず洗い物を続けた。
レバーを下げるまで抱きしめられたまま。何も言わず肩に額を乗せたまま悠人は黙っていた。
「悠人・・・俺を・・・昔みたいに抱いて」
背中でビクっと悠人の身体が揺れた。
「どうした?今までそんなこと言わなかったのに」
優しく首筋に唇を這わしてくる。
「ずっと思ってた・・・でも悠人にはいつも誰かいただろ?」
「出すだけの相手だけどな」
それでも、悠人が誰かを抱いていることには変わらない。その相手がなんで俺じゃいけないのか。
誰かと寝たことがわかる度、俺は傷ついた。俺じゃない誰かが羨ましくて、悔しかった。
「俺はさ、岳が大切なんだ。一生一緒にいたいと思ってる。
でも、岳を俺の女にしたいわけじゃないんだ。そんな位置じゃない。もっと大切な存在なんだ」
でも、そんな位置でもなんでもいいから俺の悠人でいて欲しかった。
「俺は、好きな奴とだけセックスしたい。悠人は違うかもしれないけど、俺は悠人が好きだから悠人としたかった。悠人が誰かを抱いてると思うと我慢出来なかった・・・」
「それ、なんで、過去形?」
あ・・・
「俺から離れる気?そんなこと許さないから」
勝手だな・・・
「じゃ、俺は誰とセックスするんだよ!」
「だから、出してやってるだろ?愛撫もしてる。ただ、入れてないだけだ。これもセックスだろ?」
そうだけど・・・
「悠人が誰かを抱いてたり、誰かに抱きしめられてると思うと・・・嫌だ」
「毎日、一緒にいてキスして抱きしめてる。岳を。他の奴は2度はない遊びだよ。ずっと居るのは岳だけだ」
「嫌なんだよ!悠人とヤッた奴を見るのは!」
「やっぱり笠井がなんか言ったんだな」
あ!・・・・誘導された・・・?
「昨日は結構酔ってて・・・俺にも有る事無い事言ってきた。そんなことはどうでもいい。俺が話しをするから。岳は気にしなくていい」
「気にしないなんて出来ない!そんなマーキングされてる悠人は俺の悠人じゃない!」
「こんなもの、なんの意味がある?数日経てば消える。気になるなら上書きすればいい」
その言葉と同時に首筋にかぶりついた。
俺は心も体も悠人が欲しんだよ・・・
「岳、笠井に言われたことで不安になったのか?」
身体をぐるっと回され、悠人と向き合わされる。顔まともに見れないよ・・・俯いたまま言った。
「悠人を誰にも触らせたくない・・・」
ダメだ・・・涙止まんない・・・両手首を握られて拭うことも出来ない涙は頬を伝って服にシミを作ってく。
「泣き顔もそそるな・・」
そう言って抱きしめてくれた。
「もう、誰とも寝ないよ。岳が俺を欲しがってくれるなら誰も抱かない」
背中を優しく摩ってくれる。
「呆れられて、離れていかれると困るからな」
離れていくなんて・・・そんなこと思ってもないくせに・・許してくれないくせに・・・
「悠人・・・悠人・・・」
・・・どうしても聞きたかったこと・・・
「どうして悠人は俺を抱かなくなった?」
「サカリのついた動物みたいに岳を欲しがって・・・岳はだんだん色っぽくなってきて・・・岳を俺の女にしたかった訳じゃない。そう思った時、怖くなった。気持ちと身体が追いつくまで、抱かないって決めた。だけど、岳と一緒にいたい。いたらシたくなる。だから他のやつとヤった。
排泄処理目的でな。岳を傷付けてるってわかってた。でも、岳といるためには必要だった」
パンパンと胸を叩いた。どれだけ辛かったか。どれだけ泣いたか・・・
「ごめんな。でももう、必要ないな・・・岳は俺が欲しくて、辛くて泣いてるんだから」
優しい声がまた涙を誘った。
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