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第7話

「岳・・・」 悠人は大きく溜息をついて覆いかぶさっていた体を起こして座った。玄関先で話すことじゃないけど。 今、話さないといけない。 「悠人の魂胆は見えてるから。俺、今回は流されないから」 俺も身体を起こして悠人を見る。 「わかった。岳の気の済むまで付き合うよ」 その綺麗な顔が近づいて来て柔らかい唇が重なった。 「キスは、岳としかしないって決めてたんだ」 キスは・・ね・・・まだ、俺を翻弄しようとしてる・・・キス以外は他でしたくせに。 またムカムカが湧き上がって近づいた身体をグイッと押した。大概、心が狭いよな、俺。 悠人の胸に手を置いたまま俯いた。 「お前が傷ついた顔してどうする」 だって悠人・・・ 「岳が気がすむまで何もしない。他は?なんでも聞くよ。岳が俺といてくれるなら」 そんなこと言われたら何も言えない。でも、流されない。これからの俺たちの関係の為にも。 俺だって悠人と居たいんだ。俺だけを見てくれる悠人と。 何度も何度も流されないように、気持ちを落ち着かせて悠人を見ていた。悠人は俺に誓ってくれたこと を守ってくれるだろうか。悠人は嘘は言わない。 黙ってても、誤魔化したりしない。だから、ずっと一緒に居られたんだ。 「悠人の言ってくてたこと、信じるから」 「嘘は言わないよ」 「うん」 「とりあえず中に入ろう。話したい事もあるから」 そう言って、俺の腕を引っ張って立ち上がらせた。 ソファに座る俺と、キッチンに向かった悠人。コーヒーを持って俺のそばにどかっと座った。 「久しぶりに全力疾走したわ」 必死で追いかけてくれたんだ・・・ 「もう、会話なく居なくなったりするな?」 「・・・うん」 「それとな、笠井に気をつけて」 「え?」 「あいつ、どうしても俺と付き合いたいらしくて・・・」 カップをテーブルに置いた。 「ちょっと、ややこしそうだから。俺のしたことの始末はつけるけど、岳になんか仕掛けてきたら必ず言って?」 昨日も俺に牽制してきた。 それに・・・・ 「笠井に付き合ってもいいって言ったの?」 「はあぁ?言うわけないだろ」 「笠井は付き合ってもいいって言われたって・・・俺のものじゃないなら・・くれって」 「何考えてんだ、あいつ・・・」 「ちゃんと話つけてよ・・・それと、もう飲み過ぎないこと!」 「わかってる、今回は・・・反省してるから」 神妙な顔で、申し訳なさそうに。こんな悠人を見るのもいいかもしれない。 意外な表情に悠人も流石に困惑してるのがわかる。 「悠人は俺のでしょう?他の奴はちゃんと切ってきて」 頬を撫でながら、キュウ〜と頬をつねった。 顔を歪めても視線を外さない悠人に負けて、頬をつねったままチュっと音を立てて唇に触れた。 「岳・・・好きだよ、愛してる。飽きずに・・・呆れずにか・・・これからもずっと一緒に居てな?」 俺がいなくなることがそんなに堪えるだ・・・ちょっと優位に立った気がして気分が弾んだ。 「浮気しない悠人なら、ずっと一緒にいるよ。これからもいっぱい束縛するから、容赦しないから、覚悟して」 不安定な気持ちから抜け出せた。これから堂々と悠人の恋人として隣に居られる。 ・・・堂々と恋人? 「悠人は・・・俺の恋人?」 真意の先は聞いていなかった・・・きょとんとした間抜け面な悠人と見つめ合った。今日は色んな悠人が見られて面白い。 「今更聞く?他に何があるんだよ!」 膝のにある俺の手を取って強く握りしめた。 「岳、俺はお前が好きだよ。愛してる。色んなことをグチャグチャ考えていっぱい悩まして、傷つけてしまったけど・・・俺とこれからも一緒にいてほしい。俺と付き合ってほしい」 握りしめた手を持ち上げて甲に唇をつけた。キザだな・・・ でもそんなポーズに心臓がうるさいくらいなってる。俺も大概だな・・・ 嬉しい・・・もう俺から離れないとって覚悟しないとって思ってたからこの手は俺に差し伸ばされていて、悠人が俺を必要としてくれている。 「岳?」 不安そうに見つめてくる。そうだな、返事しなきゃな。 「俺も悠人が好き。いっぱい我慢したけど、これからは堂々と悠人の恋人だって隣に居れる。嬉しい・・・ありがとう、悠人」 「岳・・・」 引き寄せられてすっぽり抱きしめられた。悠人の匂いが息を吸う度に体の中に染み込んでいく。 悠人・・・悠人・・・ 「悠人・・・」 「岳・・・いっぱい欲しがって、俺のこと。今までの分も・・・もっと、それ以上に俺は岳を大切にする」 「もう誰ともシちゃダメだから」 「しない。絶対、しない」 緩められた胸の中から顔を上げる。蕩けそうなくらい優しい顔に胸がキュンと鳴った。

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