12 / 55
第12話
「俺、男だし。ずっと一緒にいられないこともわかってたのに・・・悠人が好きで・・大好きで・・」
身体を向かい合い、ギュと抱きしめた。
「でも俺のところに帰ってきてくれるなら、その時間は俺のものだから独り占めできるから・・・それで十分だって思ってたんだよ・・・」
肩を震わす悠人の背中をトントンと優しく叩く。
「笠井が悠人にハマってどうしても欲しいと言ってきた時、正直羨ましいと思った。他の奴から奪い取ってでも欲しいって言えることが・・・」
俺は言えなかった。悠人に俺だけを見て!って言えなかった。悠人は両刀だし、女とも付き合える。悠人を束縛する勇気がなかった。
「岳・・・」
「・・俺が悠人を独り占めしてるって思て・・・俺が傷ついて悠人が悲しむって思ってる笠井に・・・勝った気がしたんだ・・・」
「岳・・・」
「だから言ったんだ・・・ヤルなら綺麗に撮ってって・・それを悠人に見せてって・・・こんなことで悠人は君のものにはならないからって・・・思わせたかった・・」
「そんなっ・・・」
悠人が他のやつとヤったことを知った高校生の頃の気持ち、3年間の俺の気持ち、笠井のこと・・・思ってたことを全部言った。
もっと早く気持ちを言えていたら、良かったのかもしれない。でも言えなかった。
やっと悠人と気持ちが通じあったのに・・・
これで堂々と隣にいられると思ったのに・・・
「悠人、君のせいじゃないから。責任とか思わないで」
「いや、俺の責任だよ・・・岳を傷つけて・・また傷つけた。俺は、岳が好きで好き過ぎてもう戻れなくなりそうで怖かったんだ」
ポツリと話し始めた悠人の気持ちに俺は、気持ちをちゃんと伝えなかったことを今更後悔した。
「中学生の時、初めて岳にキスをして・・・セックスして・・・岳を自分のものにした気でいたんだ」
俺だってそう思ってた。悠人は俺のものだって疑ってなかった。
「3年に上がってさ、高校生に絡まれたことがあったろ?」
忘れない。俺から男とヤってる匂いがすると言われた。その言葉は胸の奥に突き刺さった。
「あいつ、岳の肩抱いてケツ触って『男とヤってるだろ・・俺、お前なら抱けるわ』って言ったんだ。俺、怖かった。岳を俺の女にしたいわけじゃないのに、岳とセックスすると、そんな雰囲気出させてしまうんだって」
確かに、他の人にも言われたことがあった。雰囲気が変わったって・・・
「たまたま告ってきた女とシたんだ・・俺、岳以外の奴とも出来るんだって・・・裏切って・・・岳が傷つくってわかってて・・それでも、取っ替え引っ換え色んな奴とシた・・・罪悪感の上塗りをしていった。でも、岳が他の奴に行かないように、気を引くようなこともして・・・ずるいんだ・・・俺・・・」
俺達・・・こんなに近くにいたのに言葉が足りなくて・・・いや、言葉にしなくてもわかるって思ってたところもあるのかな・・・誤解して・・・拗らせてしまった・・・
何も纏わない姿で悠人と抱き合って。いつも強気な悠人が肩を震わせて俺の腕の中で泣いてる。
方向性は間違えてるけど・・・俺にも相談して欲しかったけど・・・悠人はいっぱい悩んだんだろうってわかる。
「馬鹿悠人。話してくれたら良かったのに。俺は悠人に抱かれることが幸せで嬉しかったんだよ?」
「岳・・・ごめん・・・」
「俺も、もう悠人のこと責められないけど・・・悠人以外の人とシちゃったし・・・」
「無理矢理だろうが」
「でもいっぱい感じてイった・・・」
「岳っ!」
俺の口を左手で塞いでブルブルと頭を振った。
「言うな・・・聞きたくない」
口を塞がれて・・・ふと思った。
石井・・・キスはしなかったな・・・
顔を上げた悠人は触れるだけのキスをしてきた。愛おしそうに頬を撫でてまた唇を合わせて。
俺は、涙の止まらない悠人の頬を指で拭う。
「岳・・・掻き出していい?」
入り口を触っただけだった後孔に指を這わす。
「出してくれるの?・・・いいの?」
「岳の中に入ってるって思うだけで気が狂いそう」
「悠人、掻き出して・・・」
******************
孔に触れて、緊張するように力がこもったのがわかった。さっきまで石井のやつのを咥えこんでた場所。
俺しか知らなかった場所。
中のものを掻き出すのは・・・怖い。どれだけ蕩けて、熱くなっているのか・・知るのが怖い。
でも、中にずっとあるのは狂いそうなほど、許せない。
岳に了解を得て、視線を合わせながらキスをした。意識をこっちに向けるため、徐々にキスを深めていく。
左手を腰に回し引き寄せて、手に乗せたボディソープを手のひらで伸ばし、右手の人差し指と中指をクルクルを入り口に這わした。
逃げないように左手に力を込めて中指をグッと押し込んだ。
いつの間にか眠ってしまったんだな・・・
風呂から上がって髪を乾かしてやって。されるがままの岳はずっと目を閉じていた。
疲れただろう。嫌なことを受け入れて精神的にキてるだろうと思って、話すことはしなかった。
触れてるだけで俺は落ち着きを取り戻していた。
腕の中には、あどけない顔をして岳が眠っている。どんなことがあっても離さない。
もう絶対に。
やわらかに額にかかる髪を分けてみる。綺麗な顔をしてる。記憶を辿ってみても、俺の初恋は岳だ。
ずっと好きだった。岳が悩んでいる事は一緒に悩んだし、喜びも一緒に分かち合ったな・・・
告白は・・・岳から・・・してくれた。
『好きな人がいるんだ。どうしようもない人を好きになってしまった。でも、告白しようと思う』
あの言葉は衝撃だった。
岳が誰かのものになってしまう焦りと、俺ではない悲しみと・・・・告る勇気のない俺は・・・結構泣いて落ち込んだ。
結局、俺に告白してきたんだけど。
あの時の気持ちは同じだったのにな・・・
なのに、俺は岳を裏切った。岳がいっぱい泣いたのも知ってる。
あまりの落ち込みようにおじさんに何かあったのか聞かれたから。
でも、俺の前ではいつも同じように振舞っていた。
辛い顔を見るたび、岳がまだ俺のことを好きなんだと確認と安堵をしてたんだ。
ごめんな・・・こんなに傷つけて。もぞもぞと動き俺の胸に擦り寄ってくる。
「ゆう・・・と・・」
こめかみに涙が伝っていく。こうやって、ひとりで静かに泣いてたんだな・・・
「岳・・・愛してるよ」
声にならない吐息で囁く。うっすら瞼が開いて、綺麗な黒い瞳が覗く。
「岳・・・?」
見開いた黒目の大きい瞳から大粒の涙が溢れていく。
「あ・・・ごめん・・・」
離れていこうとする腰を引き寄せて、抱き締めたた。
「俺、帰る」
引き寄せた胸に手のひらを置いて身体を離す。
「今日は1日一緒にいよう。いや、一緒にいて欲しいんだ」
岳のためじゃない。俺が一緒にいたい。
「今日は・・・帰らせて・・・」
「岳?」
ゆっくりと起き上がって背中を向ける。ダメだ。このまま帰らせたら。
「岳、俺といるの嫌だろうけど、今日は一緒に居たい。一緒に居て?」
離れていこうとする岳に縋りついた。
「・・・・一緒にいるのが嫌のは悠人じゃないの?」
なんで一緒にいるのが嫌なんだ?また、すれ違ってるんじゃ・・
「ずっと一緒に居たい。なんで勘違いしてる?」
「勘違いって・・・嫌がってるんじゃないの?」
「誰を?」
「俺を」
「なんで?」
「こっちが聞きたいよ。昨日抱かなかったじゃないか!石井に抱かれたから・・・もう俺とはっ・・」
ベッドから立ち上がって岳を抱きしめた。ハラハラと涙が溢れ落ちていく。
「なんで俺が嫌いになるんだよ・・・なにがあったっても岳が好きなんだ、俺は」
「昨日抱かなかったのは、薬が効いてたからだよ。そんな岳を抱きたくなかっただけ。薬が抜けたら俺でいっぱい感じさせたい」
こんな言い方しか出来ないけど。愛してるんだ・・・岳・・信じて・・・
ともだちにシェアしよう!