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第12話

「俺、男だし。ずっと一緒にいられないこともわかってたのに・・・悠人が好きで・・大好きで・・」 身体を向かい合い、ギュと抱きしめた。 「でも俺のところに帰ってきてくれるなら、その時間は俺のものだから独り占めできるから・・・それで十分だって思ってたんだよ・・・」 肩を震わす悠人の背中をトントンと優しく叩く。 「笠井が悠人にハマってどうしても欲しいと言ってきた時、正直羨ましいと思った。他の奴から奪い取ってでも欲しいって言えることが・・・」 俺は言えなかった。悠人に俺だけを見て!って言えなかった。悠人は両刀だし、女とも付き合える。悠人を束縛する勇気がなかった。 「岳・・・」 「・・俺が悠人を独り占めしてるって思て・・・俺が傷ついて悠人が悲しむって思ってる笠井に・・・勝った気がしたんだ・・・」 「岳・・・」 「だから言ったんだ・・・ヤルなら綺麗に撮ってって・・それを悠人に見せてって・・・こんなことで悠人は君のものにはならないからって・・・思わせたかった・・」 「そんなっ・・・」 悠人が他のやつとヤったことを知った高校生の頃の気持ち、3年間の俺の気持ち、笠井のこと・・・思ってたことを全部言った。 もっと早く気持ちを言えていたら、良かったのかもしれない。でも言えなかった。 やっと悠人と気持ちが通じあったのに・・・ これで堂々と隣にいられると思ったのに・・・ 「悠人、君のせいじゃないから。責任とか思わないで」 「いや、俺の責任だよ・・・岳を傷つけて・・また傷つけた。俺は、岳が好きで好き過ぎてもう戻れなくなりそうで怖かったんだ」 ポツリと話し始めた悠人の気持ちに俺は、気持ちをちゃんと伝えなかったことを今更後悔した。 「中学生の時、初めて岳にキスをして・・・セックスして・・・岳を自分のものにした気でいたんだ」 俺だってそう思ってた。悠人は俺のものだって疑ってなかった。 「3年に上がってさ、高校生に絡まれたことがあったろ?」 忘れない。俺から男とヤってる匂いがすると言われた。その言葉は胸の奥に突き刺さった。 「あいつ、岳の肩抱いてケツ触って『男とヤってるだろ・・俺、お前なら抱けるわ』って言ったんだ。俺、怖かった。岳を俺の女にしたいわけじゃないのに、岳とセックスすると、そんな雰囲気出させてしまうんだって」 確かに、他の人にも言われたことがあった。雰囲気が変わったって・・・ 「たまたま告ってきた女とシたんだ・・俺、岳以外の奴とも出来るんだって・・・裏切って・・・岳が傷つくってわかってて・・それでも、取っ替え引っ換え色んな奴とシた・・・罪悪感の上塗りをしていった。でも、岳が他の奴に行かないように、気を引くようなこともして・・・ずるいんだ・・・俺・・・」 俺達・・・こんなに近くにいたのに言葉が足りなくて・・・いや、言葉にしなくてもわかるって思ってたところもあるのかな・・・誤解して・・・拗らせてしまった・・・ 何も纏わない姿で悠人と抱き合って。いつも強気な悠人が肩を震わせて俺の腕の中で泣いてる。 方向性は間違えてるけど・・・俺にも相談して欲しかったけど・・・悠人はいっぱい悩んだんだろうってわかる。 「馬鹿悠人。話してくれたら良かったのに。俺は悠人に抱かれることが幸せで嬉しかったんだよ?」 「岳・・・ごめん・・・」 「俺も、もう悠人のこと責められないけど・・・悠人以外の人とシちゃったし・・・」 「無理矢理だろうが」 「でもいっぱい感じてイった・・・」 「岳っ!」 俺の口を左手で塞いでブルブルと頭を振った。 「言うな・・・聞きたくない」 口を塞がれて・・・ふと思った。 石井・・・キスはしなかったな・・・ 顔を上げた悠人は触れるだけのキスをしてきた。愛おしそうに頬を撫でてまた唇を合わせて。 俺は、涙の止まらない悠人の頬を指で拭う。 「岳・・・掻き出していい?」 入り口を触っただけだった後孔に指を這わす。 「出してくれるの?・・・いいの?」 「岳の中に入ってるって思うだけで気が狂いそう」 「悠人、掻き出して・・・」 ****************** 孔に触れて、緊張するように力がこもったのがわかった。さっきまで石井のやつのを咥えこんでた場所。 俺しか知らなかった場所。 中のものを掻き出すのは・・・怖い。どれだけ蕩けて、熱くなっているのか・・知るのが怖い。 でも、中にずっとあるのは狂いそうなほど、許せない。 岳に了解を得て、視線を合わせながらキスをした。意識をこっちに向けるため、徐々にキスを深めていく。 左手を腰に回し引き寄せて、手に乗せたボディソープを手のひらで伸ばし、右手の人差し指と中指をクルクルを入り口に這わした。 逃げないように左手に力を込めて中指をグッと押し込んだ。 いつの間にか眠ってしまったんだな・・・ 風呂から上がって髪を乾かしてやって。されるがままの岳はずっと目を閉じていた。 疲れただろう。嫌なことを受け入れて精神的にキてるだろうと思って、話すことはしなかった。 触れてるだけで俺は落ち着きを取り戻していた。 腕の中には、あどけない顔をして岳が眠っている。どんなことがあっても離さない。 もう絶対に。 やわらかに額にかかる髪を分けてみる。綺麗な顔をしてる。記憶を辿ってみても、俺の初恋は岳だ。 ずっと好きだった。岳が悩んでいる事は一緒に悩んだし、喜びも一緒に分かち合ったな・・・ 告白は・・・岳から・・・してくれた。 『好きな人がいるんだ。どうしようもない人を好きになってしまった。でも、告白しようと思う』 あの言葉は衝撃だった。 岳が誰かのものになってしまう焦りと、俺ではない悲しみと・・・・告る勇気のない俺は・・・結構泣いて落ち込んだ。 結局、俺に告白してきたんだけど。 あの時の気持ちは同じだったのにな・・・ なのに、俺は岳を裏切った。岳がいっぱい泣いたのも知ってる。 あまりの落ち込みようにおじさんに何かあったのか聞かれたから。 でも、俺の前ではいつも同じように振舞っていた。 辛い顔を見るたび、岳がまだ俺のことを好きなんだと確認と安堵をしてたんだ。 ごめんな・・・こんなに傷つけて。もぞもぞと動き俺の胸に擦り寄ってくる。 「ゆう・・・と・・」 こめかみに涙が伝っていく。こうやって、ひとりで静かに泣いてたんだな・・・ 「岳・・・愛してるよ」 声にならない吐息で囁く。うっすら瞼が開いて、綺麗な黒い瞳が覗く。 「岳・・・?」 見開いた黒目の大きい瞳から大粒の涙が溢れていく。 「あ・・・ごめん・・・」 離れていこうとする腰を引き寄せて、抱き締めたた。 「俺、帰る」 引き寄せた胸に手のひらを置いて身体を離す。 「今日は1日一緒にいよう。いや、一緒にいて欲しいんだ」 岳のためじゃない。俺が一緒にいたい。 「今日は・・・帰らせて・・・」 「岳?」 ゆっくりと起き上がって背中を向ける。ダメだ。このまま帰らせたら。 「岳、俺といるの嫌だろうけど、今日は一緒に居たい。一緒に居て?」 離れていこうとする岳に縋りついた。 「・・・・一緒にいるのが嫌のは悠人じゃないの?」 なんで一緒にいるのが嫌なんだ?また、すれ違ってるんじゃ・・ 「ずっと一緒に居たい。なんで勘違いしてる?」 「勘違いって・・・嫌がってるんじゃないの?」 「誰を?」 「俺を」 「なんで?」 「こっちが聞きたいよ。昨日抱かなかったじゃないか!石井に抱かれたから・・・もう俺とはっ・・」 ベッドから立ち上がって岳を抱きしめた。ハラハラと涙が溢れ落ちていく。 「なんで俺が嫌いになるんだよ・・・なにがあったっても岳が好きなんだ、俺は」 「昨日抱かなかったのは、薬が効いてたからだよ。そんな岳を抱きたくなかっただけ。薬が抜けたら俺でいっぱい感じさせたい」 こんな言い方しか出来ないけど。愛してるんだ・・・岳・・信じて・・・

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