13 / 55
第13話
「信じてくれって言っても、岳は俺の気持ち疑う?」
「そんな言い方・・・」
好きだから、いつだって信じていたいよ・・・でも・・
「信じて」
「悠人・・・」
「昨日、来るって言ったのに来ないし。飲みに行った店、叔父さんの店にしたのってなんかありそうだったからだろ?電話もらって石井の家かたっぱしから聞いて・・・俺の所為で岳に・・・って思ったら、居ても立っても居られなくて・・・」
そう、石井に誘われた時、悠人の叔父さんの店にしたんだ。警戒してたわけじゃないけど、石井と笠井は仲良いことは知ってたし。
笠井が悠人のことで躍起になってたのも知ってる。
急に俺に絡んできた石井を警戒していたと思う。
「こんなに岳が好きなのに、なんで他の奴なんて・・馬鹿だったよ、本当にごめん。こんな目に合わせて・・・どのツラ下げてって思うかもしれないけど・・・岳・・・俺といて?どこにも行かないで」
跪いて縋りついてくる悠人を見つめた。
こんな弱気な悠人を見るのは始めてだ。
いつも俺様なのに。
でも、いつも俺を一番に考えてくれること。
悠人が俺を大切に思ってくれてることはわかってる。
でも・・・
「いいの?俺・・・他の人とシたんだよ。嫌じゃないの?」
腰に擦りつく悠人の髪を撫でる。少し硬くて癖のない髪。この髪を掻き上げる悠人の仕草が好きなんだ。
グイっと力任せに引っ張られ、バランスを崩して元いたベッドに座り込んだ。痛いほど肩を掴まれた。向かい合う目の前には見た事もない焦り顔の悠人。
「もう一度、始めないか?俺のことも岳のことも・・・リセットして初めから」
「リセット?」
「うん、純粋に岳が告ってくれた頃と同じ気持ちになってやり直したい」
「悠人?・・・」
「あの時に戻ってまた大好きな岳と始めたい。始めさせて?」
何言ってるの?今までのことをなかったことにするの?
そんなこと・・・出来るわけないじゃない・・・自分のしたことをなかったことにしてまた俺とやり直す?・・・・そんな風にしか聞こえないよ?
プチン・・・っと、俺の中の何かが弾けた・・・
「俺が・・・どれだけ苦しんだか・・・それをリセットなんて出来ないよ」
さっきまで抱いてくれなかったことが悲しかったのに・・・今は悔しくて涙が伝う。
こんなにも悠人のことで翻弄されてるのに、まだ、俺・・・
「俺は岳がいいんだ!お願いだから俺といてよ!」
「じゃあ、悠人はあの下手なセックスをしてた時に戻れるの?・・・・都合のいいこと言うなよ!
俺は悠人しか見てこなかったんだよずっとそばに居たんだよ?こんなことがあったって悠人を恨んでなんかいない!単に運が悪かっただけだし!石井は優しく抱いてくれた!レイプ紛いだったかもしれないけど、俺はレイプなんかされてないし!」
悔しくて・・・軽率な言葉に腹を立ててるのに・・・
「違うよ!岳!岳が俺以外のヤツとシて、俺が嫌がってるって思ったんだろ?
だったら、リセットしてもう一度やり直そうって言ってるんだ!」
そんな簡単に・・・・・
「悠人の言ってることは、都合よく聞こえる。
自分がしてきたことをなかったことにして、一度の石井とのことと天秤にかけてる。
俺がずっと我慢してきたことは消えないんだよ。
それでも、悠人が俺のところに帰ってきてくれるなら・・・
帰ってきた悠人は俺のものだから・・・
他の誰かを抱いても・・・我慢出来たんだ・・・笠井とヤったって聞いた時、羨ましかった・・・悠人に抱いてもらえて・・・でも、悠人は俺を大事にしてくれるから、辛くても、好きだから・・・我慢出来たんだ。
忘れるなんて出来ない!そんなのずるい・・・」
「岳・・・」
「岳、おまえ・・笠井を羨ましいって思ったの?」
あ・・・勢いで言ってしまった・・・
「なんで・・・・笠井を羨ましがるんだよ!
あいつも他のヤツらもヤるだけの相手だって言っただろ?岳とは全然違う!・・・」
「それでも!・・・ヤるだけでも、この腕に誰かを抱いて・・・俺はっ・・・こんなに悠人が好きなのにっ・・抱いても・・・もらえない・・・っ・・・そいつら以下じゃんって・・・!」
嗚咽と重なってうまく話せなくて。大きく息を吸って深呼吸を何度かした。涙が次々溢れてくるのと同じように想いが溢れてくる。
「ごめん・・・岳がそんなこと思ってたなんて思わなかった・・・いつもなら『悠人はどうしようもないな』って呆れて・・・でも、そばに居てくれるから・・・」
そうでもしなきゃ・・・
「そうでもしなきゃ・・・諦めなきゃ・・・一緒には居られないじゃん。俺が呆れて離れたら・・・悠人の隣に違うヤツが・・・そんなの絶対嫌だ!・・・悠人の隣は・・・俺の場所なんだから・・・っ!」
痛いくらい掴まれた肩から悠人の腕が背中に回った。
「岳!ごめんな・・・俺ら、もっと思ってること話さなきゃな?ごめん!!」
こんなヤツなのに・・・でも、好きで好きで・・・悠人がいないと生きていけない・・・・
悠人の肩に額を乗せて腰に腕を回した。
悠人・・・悠人・・・
「岳・・・好きだよ・・・誰と寝たって満たされやしないし、気持ちだって移ったことなんてない。いつも、こいつが岳だったらって思ってた。他のヤツとヤったらもう・・・岳に触っちゃいけない気がしてた。だから、抜いてやるのも・・・躊躇ってた・・・その反面、岳に触れるのが嬉しくて・・・」
悠人の腕に力がこもる。
「馬鹿悠人・・・」
「ごめん・・・」
ゆっくりと身体が離される。悠人のぬくもりが消えて寂しい。涙腺が壊れた俺はそれさえも涙を誘う。
胸の奥がギュとなって、身体が悠人を欲しがってるのがわかる。親指で涙を拭ってくれる優しい指にも嬉しくて涙が溢れる。
悠人が欲しい。
悠人・・・悠人・・・
「そんなもの欲しそうな顔するなよ・・・」
抱き締められた悠人の腕の中でいつもにないくらい動悸がする。なのに、冷めていくような言葉が返ってくる。
だって悠人がほしんだよ。欲しがったらダメなの?また・・・我慢しなくちゃいけない?
やだよ・・・もう・・・
「なんて顔してんの?俺を煽るなって言ってんだよ。俺が岳を欲しくないわけないじゃん」
「じゃ、なんで我慢してんだよ!」
抱き締めてるくせにになんで?悠人が大きく溜息を吐いた。・・・なんなんだよ、もう。
「岳が欲しいよ。でも、ちょっと落ち着かないと暴走しそうなんだよ」
首筋に顔を埋めてキツく抱き締める。
「悠人・・・」
「昨日さ、岳ん中指入れた時・・・蕩けてて・・誘うように絡みついてきてさ・・・これを石井にしてたかと思うと・・乱暴にしてしまいそうで・・・岳を傷付そうで・・・怖い」
そんな・・・そうか・・・入れっぱなしで何時間もいたような気がする。
最初の違和感はすぐになくなって・・・
「じゃ、悠人がもっと蕩けさせてよ。悠人だけ・・・俺が身体開いて受け入れるの・・・悠人が欲しいのに・・・乱暴にしてもいいよ?悠人ならなんでもいい・・・もう、文句言わないから・・・」
悠人の躊躇いに待っていられなくて・・・・頬を掴んで強引にキスをした。
ともだちにシェアしよう!