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第14話
「岳?」
唇を離したら、指で優しくなぞってくれる。昔、よくこうやって愛おしそうに唇を触ってくれた。
「俺達って、離れたくないのに意地張ったり、迷ったりして・・言葉少なすぎたよな・・岳も、帰るって言ったり、抱いてくれって言ったり・・俺は岳じゃダメだし、岳は俺じゃないとダメなんだよな」
「そうだよ・・・最初に迷ったのは悠人なんだからな」
ぎゅーと抱きしめてくれると悠人の匂いが俺を包んでくれる。
「ごめん。岳、もう帰らない?」
・・そこ?
「帰らないよ。抱いてくれるんだろ?」
「うん。岳を俺のもんにしたい。俺も、もう岳だけだからな。もうよそ見しない」
「当たり前だ!また、よそ見したら捨ててやる!」
「うん、捨てられないように・・岳を虜にしとかないとな。俺のテクで」
「・・・それ、引く。萎える」
胸に手を当てて身体を離そうとする。
「岳、いいな。こういうの。やっぱり岳が一番いい」
腰に回した悠人の手が力強く引き戻した。
「・・・馬鹿悠人」
「うん、岳好きだから。大事にするから」
「・・・バカ」
両頬を挟んで視線を捉えて見つめ合う。いつから・・・ちゃんと悠人の目を見てなかったんだろう。
気持ちも目も逸らしてきた。じっと俺だけを見つめてくれる。
俺が悠人の瞳に映ってる・・・それが嬉しくて、唇を合わせたくて目を閉じた。
柔らかい感触が触れる。背中に腕を回すと、悠人も抱きしめてくれた。
胸がいっぱい・・・満たされる・・・
「岳、これだけは決めておこう。俺達が回り道したのは言葉が・・・コミニュケーション不足だったよな?いっぱい話そう?思ってること言い合おう。喧嘩したっていいじゃん。な?」
悠人らしいというかなんというか。思ってることを言ってくれてるんだよな・・・
それが堪らなく嬉しかった。
「うん。いっぱい話そう。大事するよ、悠人。愛してるから」
今の言葉を言葉にしてみた。発した声が耳にたどり着くとなんとも恥ずかしくて顔がかあぁっと熱くなった。
「岳、初めて『愛してる』って言ってくれた・・」
え?そうだった胸の中では何度も言ってたから・・
「俺は悠人が愛おしいよ。愛してるんだ。もうずっと。悠人だけ・・・」
その最後の言葉を飲み込むように今度は激しく唇を合わせてきた。
悠人・・
甘い甘いキスを・・・溶けてしまいそうな・・・何も考えられないくらい蕩けるキスを、飽きるまで・・・
長い時間をかけて求め合った。
身体を這う手の気持ちよさで快感が腰に集まる。抱いてくれるのかと期待してたのにベッドに転がって抱きしめながら会話を始めた。
背中を撫でる手。
数年前、この手で俺は何度もイッたんだ。また、こうやって悠人に抱いてもらえることが嬉しくて堪らない。
他に目移りさせたのも、元は俺に原因はあるのかもしれない。そう思うと問い詰めて責めることが出来なかった。
幼いあの日に。
そのまま手を離せば、悠人は違う人生があったはず。その手を離せなかった。幼かったのか、我儘だったのか。
「岳?何考えてる?」
「・・・悠人の将来」
「俺の将来?岳と一緒にいるけど?」
ほら。
当たり前のように言ってのける。
「嫌か?」
え?・・・今まで聞いたことない戸惑う声。嫌な訳ない・・
だって俺もずっと一緒にいるって、そう思って生きてきた。
「悠人、本当に俺でいいの?お前は女も
イケるんだし・・もう離してあげられないけど」
ふんっと鼻を鳴らし肩を引き寄せる。
「女?岳と比べれるような奴はいないなぁ。岳は勘違いしてるみたいだけど、女は試しただけだから。んーっとバイって言うんだっけ?でもどっちかっていうとゲイよりのバイ?ってヤツだな」
ゲイよりのバイ・・・なんだそれ。女もイケるんじゃないか。
「岳はどうなの?俺でいいの?よくないと困るけど、女は抱かせないから」
抱けないの間違いだろ。こんな・・・無理だし。いや、シたくもないけど。
俺は生粋のゲイだから。
「岳、女としてみたい?」
心配そうな顔で覗き込む。させないって言っときながら俺の気持ちも気遣うなんて今までの悠人にはなかったな・・
「いや・・・してみたいとは思わないけど。どっちかっていったら・・・男としたい」
合わせていた視線を外した。女と、あえてする必要なんかないよ。男というより、俺は悠人だけでいい。
「そうか・・・男か・・・」
急に暗い顔をして俯いた。腰に回した手が引き寄せる。
「・・・まじ・・・石井のヤツ許せねぇ・・・」
なんで石井?
「石井?」
「女、好きなのに石井にやられたってことと、男しか好きになれないのにやられたってことは、全然意味が違う」
嫉妬してくれてる・・・嬉しい・・・
「でも、あれは同意じゃないよ」
俺は石井なんてこれっぽっちも対象じゃない。
友達としてはいい奴だと思ったけど、それも笠井の企みの加担をしていたわけだし。
ふと、あのことを思い出した。
「石井さ、キスはしなかったんだよな・・・」
そう、あいつはキスはしなかった。まあ男同士で、レイプする相手にキスはしないか。
「岳の唇はまだ、俺専用?」
専用かどうかはこれからのおまえ次第だけどな。
「今のところは悠人だけだけど」
「これからもだよ。ここも、ここも」
チュと唇を合わすのと同時に下着の上から割れ目に指を差し込んで孔を押す。
「もう俺だけの・・・俺専用だから。誰も入れちゃダメだから」
ケツの片丘を掴んだまま、額に瞼に頬に・・・キスの雨を降らせた。
悠人が優しくて・・・戸惑いながら俺に触れてくる感じは、腫れものに触るようにぎこちなくて。
じれったい。今日の悠人は見たこともなく・・甘い。
やっぱり、抱くのが怖いんだと、他の誰かにされた後なんて嫌なんだと思ってしまう。
悠人、案外潔癖なところあるから・・・だけど、もう諦めて。
他の誰かと歩く後ろ姿なんて見たくないんだ。悠人の顎を掴み、視線を合わせたまま誘うように口づけて、割れ目を舌でなぞった。想いも込めて・・・舌を、差し込んだ。
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