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第17話

「今日は・・・暇そうだな」 スタッフルームから店内を覗き悠人が言う。白シャツに、腰に巻く黒いエプロン。ギャルソンってやつだ。 悠人、かっこいいな・・・エプロンを巻き白シャツのチェックをする悠人の横顔に見惚れた。 視線を感じたのか、振り返って俺を見てふにゃっと蕩けた顔をする。 マヌケ面・・・ 「岳は腰が細いから似合うなぁ。かっこいい」 俺の襟を直しながら腕に手を這わせて、合わすだけのキスをしてくれた。お互いに褒め合うって・・・バ、バカップルじゃん・・ 「続きは帰ってからな」 店内に繋がる扉まで手を繋いで数歩、歩く。俺と一緒ならいい。悠人もずっと一緒に居たいと思ってくれてたら。 それにしても悠人が甘い・・・居た堪れない・・ 少し薄暗い店内に入るとベテランの・・・オープン当初からいるらしい翠君がにっこり微笑んでくれた。 今年から俺達と同じ大学に通うらしい彼は、これがまた、かなりのイケメン。背も悠人と変わらないから余裕で180センチを超えている。 細身で手足が長い。ここは・・ほんとに顔で雇ってるのか?でも、俺は普通だし。 「あー、お疲れ。今日ラストまで入れる?浩大が休んでて、お願い出来ると嬉しいんだけど」 オーナーが申し訳なさそうに伺ってくる。チラッと俺を見た悠人がうんっと頷いて 「大丈夫です。ラストまで入れます」 と答えた。 「あー、それと後で紹介するわ、あの角に座ってるの、俺の弟」 オーナーが差した方をほぼ同時にふ振り返る。 頭の中で先輩の言てった「美形の弟」って言葉が咄嗟に浮かんだ。 そこにはオーナーとは似ても似つかない華奢で色白の、女性かと思うくらい綺麗な人が座っていた。 「すげー美人・・・」 ボソッ言った悠人のケツを抓る。顔を歪ませた悠人が振り返り苦笑いをした。 「岳だって思ったろ?すげー美人だって」 思ったけど・・・悠人が思うのは嫌だ。ふくれっ面をした俺を見て 「ククッ・・・岳が可愛い。俺は岳にメロメロだわ」 一瞬腰をツツッて触ってフロアに出て行く。・・メロメロってどこのエロオヤジだよ。 心の中でツッコミながら、俺は一瞬で火がついた顔を押さえながらフロアに出て行った。 具合悪そう?そう思った瞬間、オーナーがすっと俺の横を通り弟さんのそばに立った。 その横には翠君。何か話して、翠君が弟さんを連れて歩き出した。 真っ青じゃん。遠目で見ていた弟さんが横を通り過ぎる。 ほんと女みたいだな・・俯き加減が長い睫毛を際立たせた。 細い首。うすい身体。って、俺なんで観察してんの? でも、ほんと綺麗な人だな・・ 厨房の康介さんがチョイチョイと人差し指で呼び寄せる。 「はる君にホットミルク持って行ってやって」 カウンターに置かれたホットミルクをトレイに乗せてスタッフルームへと向かう。 ノックしようと拳を上げた。と。その時、翠君の声が中から漏れてきた。 聞くつもりはなかった。まあ、大体そうだろう。ノックするタイミングが見つからなかったんだ。 ・・・2人は付き合ってるのか・・・ あんな綺麗でモテそうな人でも・・あんなに悩むんだな。 一緒か・・・ 人を好きになればみんな不安になるし、俺は何度も悠人を信じて、裏切られた。 でも、縋って、もがいても悠人から離れなかった。 裏切られても信じて離れられない俺と、裏切られるのが怖くて縋る、弟さん。 でも、相手を思う気持ちは一緒なんだな。愛する人を失いたくないんだ。声が聞こえなくなって一呼吸置いてノックした。 「赤井です。ホットミルク持ってきたんですけど」 要件を伝えた。 抱き合ってるかもしれないし、それ以上のことも・・さっき俺らもしたし。 ドアが開き、座っている弟さんを見てなんだかほっとした。 「大丈夫ですか?康介さんがホットミルク持って行ってやってって言われて・・・」 伺うように見ると、爽やかな笑顔で翠君が迎えてくれた。イケメンの笑顔は驚異的だ。 「ありがとうございます。ちょっと落ち着いたら帰るので」 ホットミルクを受け取って中へ促される。 いいのかなぁ・・入っても。戸惑っていると弟さんが声をかけてくれた。 「ありがとうございます。あっと、初めまして七井 はるです。よろしくお願いします」 にっこり微笑まれて、ドキっと胸が跳ねた。 すごっ!・・半端ないな・・・ カップをテーブルに置くと弟さんの顔色を見た。まだ、顔色戻ってないな・・・ 「大丈夫ですか?・・一人暮らしとかですか?」 こんな状態で1人は危ないんじゃないの? 「ありがとう。大丈夫です」 カップを手に持ってふーふーと熱を冷ます。ちょっと時間立っちゃったから冷めてるかも。 「美味しい。ありがとう」 嬉しそうに微笑む。綺麗だな・・・ ボーっと見惚れていると、隣からクスッと声がした。 「赤井さん、見惚れちゃった?」 その言葉でカーッと顔が熱くなる。 「あ、いやっ、そのっ、ごめんなさい!」 キョドった俺を見て、またクスクスと笑う。 「綺麗でしょ、はるさん。俺も時々見惚れるから」 今度は弟さんが真っ赤になって俯いた。 「・・恥ずかしい・・」 か、可愛い! 綺麗なのに、ツンとしてなくて・・・なんて言うんだ?!こういうの?! うぶ?・・・っていうのか? ドアがバンっと勢いよく開いた。 「岳、サボんな!」 イラついた悠人が立っていた。そうだった!俺、バイト中・・・ 「赤井君、一人暮らしじゃないから大丈夫です。心配してくれて、ありがとう」 チラッと翠君を見る。視線を合わせて微笑む。 あ・・・そっか。一緒に住んでるんだ・・・ 「あ!すいません。大丈夫ですか?って、俺、渡辺悠人です。よろしくお願いします」 深く頭を下げた。 「七井です。よろしくお願いします」 「すいません、忙しいんで!岳!!」 「うん!・・・は、はるさん、気をつけてゆっくり休んでくださいね」 弟さんっていうのもなんだかな・・翠君と同じように呼んでみた。 「ありがとう」 その言葉も聞き取れないまま、悠人に手首を引っ張られフロアに出た。 「なんだよ、はるさんって!いつの間に・・」 機嫌が悪いのはそこか・・・ 手首を掴む悠人の体温に、背中にニヤけてしまう。俺の悠人もかっこいいんだから。

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