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第18話

「今日は暇だって言ったの誰だよ」 悠人じゃないか・・俺達が入ったと同時に忙しくなってラストまで大繁盛だった。 「翠君、翠君って、どうなってんのあの店」 確かに『今日翠君いるって聞いて』って来られたお客さん多かったよな。 「まあ、俺よりいい男なのは認める。イケメンってああ言う奴のこというんだろうな」 妙に納得しながら。 「確かにモテる要素満載な男だよな」 「そうだよな・・岳もあーゆうの好み?」 俯きながらちろっと見る。なんでそうなるんだよ。はるさんと翠君を見たら美男美女?なカップルだとは思うけど・・・俺のタイプは悠人。 悠人の全部が俺のタイプだから。ドンピシャな奴は他にはいないんだよ。 「そこで黙るなよ。不安になるわ」 「あ・・・俺は悠人でいいよ」 「なんだよ、その投げやりな感じ。しょうがないのかよ」 少し唇を尖らせる。 「バイト前の岳はどこ行ったんだよ」 チラッと見て目が合った。ニコっと笑って手を絡ませて恋人繋ぎをした。 「渡辺君、僕にくれるんでしょう?」 一瞬びっくりして、フニャリと蕩けそうな甘い顔になった。 「全部やるよ。岳に全部」 絡ませた指を、強く、繋ぐ。 「嬉しい・・・」 「岳・・・」 甘い悠人に甘える俺。今はいいよ・・・な? 深夜と呼ばれる時間。ほとんど人通りのない帰路を人差し指と小指を繋いで悠人のマンションまで帰った。 人差し指で小指を引っ掛けるように繋いだら、悠人は優しく微笑んでくれて、そのままずっと繋いでてくれた。 手なんて繋いだの・・・幼稚園児以来だ。 こっぱずかしくて熱くなるのと、触れた悠人の指が冷たいのがなんだかアンバランスで、これも俺達っぽくて笑った。 一緒に風呂に入って、同じベッドで眠る。何故か悠人の腕枕なのは気になるけど、まあそれも今日はいいことにする。 悠人鼓動を聞きながら目を閉じた時、あの2人・・翠君とはるさんの姿が浮かんだ。 外見は本当にお似合いで綺麗な2人だと思ったけど、スタッフルームから聞こえてきた会話は、あんな綺麗な人でも、人を好きになると不安になるんだなぁ・・って。 同じ人間なんだよなって当たり前なんだけど思った。確かにあんなイケメンが相手だと心配になるのもわかるけど。あんな綺麗な人が苦しんで悩んでることに親近感が湧いた。 俺も悠人でいっぱいの毎日で。俺だけの悠人にしたくて悩んだし、苦しんだ。こうやって俺だけをみてくれるなんて夢みたいだ。 中学生の頃は当たり前だと思っていたことが、当たり前なんてことはないんだと泣いて、悩んで苦しんだ。 ただ。いつかまた。 悠人が戻ってきてくれる、なんて願って離れていった悠人の背中を何度も見送った。 この腕の中は奇跡に近いのかもしれない。そう思うと、神様、仏様、ご先祖様・・と、誰でもいいから感謝したい。 手を合わせたい気持ちでいっぱいなんだけど。 愛する人に愛されるなんて、なんて幸せなんだろう。大切にしないと。 そう思って眠った次の日、俺の試練はまだまだ続くんだと、溜息を吐いた。 寝坊した月曜日の朝。一緒に眠った悠人の体を手を伸ばして探した。 まだ暖かいものの悠人はいない。 起きたのか・・テーブルに置いたスマホを手に取ると10時を回っていた。 今日は休みで夕方からバイト。のそのそとベッドから這い出て廊下を抜けてリビングに向かう。 一人暮らしには広過ぎる部屋。悠人がなんでこの部屋に決めたのか聞くのが怖かった。 誰かと暮らす為だと思ったから。 微かに話し声がする。電話でもしているのかと玄関のほうを見ると玄関に続く扉が少し開いていた。 ・・・女の声。そして長い髪が見える。 嫌な予感しかしない。2人は声を殺しながら話しているようだけど、扉が開いているので意味がない。 女が縋るように甘い声を出しながら誘っているが悠人は帰るように促している。 こうやって、この部屋に連れ込んでいたんだよな・・・笠井ともここで・・・ 振り返り隙間から見えるベッドを見た。 そこで、昨日、のうのうと眠った。悠人が色んな奴とヤった場所。 女と揉めてる悠人を無視して寝室に戻り、ガバッと捲り、シーツを全て外していく。 無心で。破かん勢いで。布団はベランダから全部外に出し、干す。 本当はベッドごと捨てたい。 でも俺のものでもないし、悠人は案外こだわるから、きっとこのベッドも気に入ってるはず。 干した布団に除菌スプレーを振っていく。なんで、寝室に除菌スプレー?って思ってた代物だけど、なんとなく納得した。 いろんな奴とするんだもんな・・匂いとか気になるし。 剥がしたシーツを洗濯機まで運び放り込んだ。寝室に戻ると開けっぱなしの窓からひんやりした風が吹き込んできた。 もう、こんな思いはしなくて良くなる・・ 悠人は俺のものになったんだから・・ 他の奴の気配とかすぐになくなる・・ そう、自分に思い込ませようとした。 なのに無情にもベッドの隙間から落ちたんだろう。キラリと光るピアスが床に落ちていた。 キラリと光るものを拾いあげた。耳に着けると可愛いだろう、パールとリボンが付いている。 大丈夫。悠人は俺のもの・・・ 何度も何度も言い聞かす。・・・俺に飽きたら? このピアスの持ち主のようにここには戻ってこれないだろう。明日か、1週間後か、1年後か。 いつか来るのかもしれないそんな日。 また泣かなきゃいけないのか・・・ 悠人を思って胸が締め付けられるような、辛さと絶望。息も出来なくなるくらい辛くて真っ暗な毎日。 幼馴染みという位置がもっと俺を追い詰めた。 もう・・・嫌だな・・・あんなのは。 手のひらをじっと見つめる。キラキラと光る。 玄関から足音が近づいてくる。複数の足音。 『待てよ!』 悠人の遮る声も無視して近づいてくる足音。扉の前で立ち止まった女と、振り返った俺と、目が、あった。細身の小柄な女。 「なんで?悠人君、男の子じゃない。部屋に入れるの拒む必要ないじゃない!」 横にいる悠人を睨む。連れ込んでいるだろう女と戦うつもり満々の女。 何が、遊びでヤるだけの相手だよ。相手は本気じゃねーか。 まあ、想定外だった女は肩の力を抜いた。修羅場はごめんなんだよ・・・でも。 「悠人の女?」 白々しく確認をする。女はキッと俺を睨んで叫ぶように言った。 「それはあんたに必要な情報?」 いや、どうでもいい情報だよ。ただ、確認したいだけ。 「悠人を独り占めはできないみたいだよ?こんなんつけてる女も来てるみたいだし?」 手のひらのピアスをぶらつかせた。引きつりひどい形相になる。 「悠人君・・私だけじゃないの?私がいいって言ったじゃん」 いいって?・・・言ったのか・・・

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