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第22話

結局忙しくなって、悠人の穴埋めをあきら君がする羽目になった。バタバタとやってきて手早く馴染んでいく。 慣れてるよな・・ オープンから居るって言ってたから長いのもあるんだろうけど、、気遣いの出来る人なんだよな。彼なら恋人のちょっとした変化もすぐにわかるんだろうな。 そんなことを思いながらテキパキ動くあきら君を見てた。 帰りにもう一度悠人に会いに行こう。悪いところは改めるって謝ろう。別れたくないってちゃんと言う。 悪いけど、もう石井には付き合えない。俺の最優先は悠人だから。 今日はオーナーの弟さんの美容室の予約が入っているらしい。オーナーがあきら君に話していたのを盗み聞きした。 本当にイケメンだよな、あきら君。どこから見てもカッコよくて・・でもオスっぽい匂いがしない。清潔感があって・・弟さんに一途で。 浮気なんてしないんだろうな・・ この先、悠人がまた、俺を置いて違う日が来るかもしれない。そう思うと胸が張り裂けそうだ。 どこにも誰にも、もう・・嫌だ。俺は悠人が欲しい。 弟さんの店の人達が入ってくる。視線があって微笑み合う。 あーーいい雰囲気!! いいなぁ、信頼し合ってる感じ。弟さんと並ぶと本当に美男美女だと思う。 まあ、弟さんだけど。 席に着くか着かないかのタイミングであきら君に向かって、俺の前を通り過ぎる。 あの人・・ あきら君に寄り添うように立って見つめあって・・あ・・あれは違うな・・上半身が反れてるから嫌がってるのか。 呑気にその様子を眺めていると良い匂いがすっと過ぎる。 弟さんだ! し、修羅場?? あの2人は凄い。 はるさんとあきら君。 あきら君を好きだと思われる人が、ちょっかいかけても動ぜずに・・信頼してるんだよな。 お互いがお互いをちゃんと分かってるかんじがする。俺と悠人に足りないもの。それはお互いが考えていることを言う・・会話だ。 話さなくてもわかるだろう・・そう思ってるお互いが。小さい頃からずっと一緒にいるからおおよそのことは何となくわかる。でも肝心の心の奥の言葉はお互い言ってない。 そんな気がする。少なくても俺は言っていない。 臆病なんだよ、俺たち。それじゃダメだ。 悠人の本音を聞きたい。それが聞けるのは俺しかいない。 バイトが終わってトボトボとマンションに向かう。数時間前の悠人の剣幕は治っているだろうか。 あんなに声を荒げた悠人を見たことがない。そんな風に俺に声を荒げてことがない。悠人をイラつかせた、地雷を踏んだんだ。 謝ろう。 悠人と腹割って話さなきゃ。エレベーターのボタンを押す。待っていた扉が開き、一歩を踏み出し乗り込んだ。 階を告げる音が鳴り躊躇いながら一歩を踏み出す。 数時間前の剣幕を思い出した。先に謝ろう。 それからヤキモチ焼いたって素直に言う。でも悠人が好きなんだって伝えるんだ。 ドアの前に立ち大きく深呼吸をした。右手人差し指をチャイムにつけて勢いよく押した。 バタバタとかけてくる足音。 ・・・悠人じゃない・・・足音・・嫌な予感しかしない。 ガチャ。内鍵が外されて開いた先には見覚えのある、いや今日も見た。 悠人と一緒にいるところを。そんな笠井が上半身裸で立っている。 「なんで?笠井?」 もう、俺だけにしてくれたんじゃないの? 俺が怒らせたから?もう嫌いになった? 数時間前の後悔とまたあんな思いをしなければいけないのかとか、やっぱり俺は選んで貰えなかったんだとか・・・後から後から溢れてくる思いにポタポタと涙が床へと落ちて消えた。 びっくりしたまま振り返った笠井の視線の先にはこれも上半身裸の悠人が風呂場の方から出てきた。 その姿に膝の力が抜けてパタンと地面に座り・・声を殺して止まらない涙を手で覆った。 「え?!ちょっ!!岳?!」 玄関に座り込んだ岳を呆然と眺めた。 あっ!! 眺めてる場合じゃない!!俺と笠井。上半身裸で・・それも俺は風呂から出ちゃってるし・・・ 「岳!違うから!」 何が?って自分でも突っ込んだけど、全てがおまえの思ってることと違うから! 「浮気がバレた時の常套句だよね」 壁にもたれた笠井が冷めた声で放つ。キッとキツく睨んで笠井を威嚇する。 「・・もう・・終わりにする・・ずっと悠人を待って・・きっといつかまたって・・もうこんな思いは嫌だ。もう・・」 袖口で涙を拭って立ち上がる。それと同時に笠井が上着を持って岳の側まできて知らん顔で靴を履き始める。 岳の真横に立って見据えた。 「勝手に誤解しないでよ。渡辺とは何にもないし。今のあいつは俺では勃たないよ」 ポンと肩を叩いてドアを開けて出て行った。残された泣き顔の岳と上半身裸の俺。 「岳・・俺はおまえだけなんだよ・・終わりになんかしないでよ」 もう体裁とか恥とか・・もう関係ない。 岳がいればそれでいい。 岳がいい。 玄関で立ち尽くす岳に手を伸ばす。 「岳、好きだよ。きて」

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