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第23話(完結)
おまえから来て。もっと俺を欲しがってよ。
我慢とか諦めないで俺に向かって来て。
もうよそ見なんかしない。傷つけたりしない。怖がらないで向かって来て。
差し出した手に思いを込めた。
指先を見つめてから視線を合わす。綺麗な瞳からポタポタ落ちて服にシミを作っていく。
一歩一歩近づいてきた岳は伸ばした手に触れず素肌の胸にポスンと収まった。
「悠人・・笠井と何してた?」
胸に顔を埋めたまま問いかけてくる。
「あいつコーラ持ってくるのはいんだけど、思いっきり振ってきやがって、開けた途端、爆発したんだよ、自分の分も振ってたからべちゃべちゃだよ」
服を脱いだだけだからまだコーラの匂いが身体から匂ってくる。その匂いを感じたんだろう岳は頭を上げた。
「まだ、風呂に入ってないから匂うだろ?」
「・・うん・・」
まだ納得していないのか、じっと見つめては俯いた。
「新しい恋をするんだって。今度は真剣に付き合う相手探すって。言いにきただけ。なにもないよ。信じて?」
優しく抱きしめて髪にキスをする。こんな俺を信じろっていうのもおかしいけど。
ここからの俺は誓って嘘は言わない。
「・・・信じる・・」
じっと返事を待った。何時間でも待とうと思った。いつもの俺ならイラついて待つなんてことはしない。
でも。
ここからは違うんだ。今、一瞬のここから。おれは毎秒ごとに、岳に真摯でいたいんだ。
か細い、くぐもった声が耳に届いて、覆いかぶさるように抱きしめた。
「悠人はずるい」
手のひらで顎をすくい上げて絡めとるように舌を差し込んだ。
そうだよ、俺はズルくてわがままなんだよ。こうやって差し伸べた手を取ってもらいたくて、来てくれるのを待っている。
取り込んでしまえば、我が物顔でしたいようにするくせにな。
ごめん・・・岳・・
「ゆう・・と・・」
息もさせないほど食らいついて、その隙間から愛しい声が漏れる。岳の唇を堪能し、ベッドにもつれ込まそうと勢いをつけようとした瞬間、股間に衝撃が走った。
「い・・て・・っ!!」
唇を離すと蕩けた顔の岳を想像していたのに、鋭い目つきで睨んでいた。
股間の衝撃は岳が力強く握っていたため。
「悠人、お前が相手してきた奴らと一緒にするな。なしくずしでこんなことされたらムカつく」
涙をいっぱい溜めた目で、キツく睨む。
キツい言葉を放っているくせに、片手は俺のスエットのウエスト辺りを必死に掴んでいる。
ナンパした奴らとは違う。俺は特別なんだと吠えている。
威嚇しても可愛いだけなんだけど。
プライドが高くて、なのに辛抱強く俺を愛して待っててくれた岳は他の奴らと一緒な訳ないじゃん。
他の奴に取り繕った事なんてねーよ。岳のヤキモチで胸がいっぱいになる。
こんな事言ったらキレそうだから言わないけど。
「嫌な思いさせてんならごめん。俺、気がつかない奴だからさ・・・嫌なことは嫌だって言って。直すから」
もう我慢なんてさせない。
「どうしたの?えらく謙虚じゃん」
少し顔を傾けて「ん?」なんて表情を見せてくる。
可愛いなぁ、もう。
「俺は岳に嘘はつかない。裏切らない。真摯な気持ちで一生側に居る」
「何それ・・大きなこと言うんだな・・人の気持ちなんて繋ぎ止められないんだよ。今は1番でももっと好きになる奴が現れるかもしれない。そんな約束はしない方がいい」
そんな奴が現れたとしても岳と別れるなんて出来ない。今まで酷いことをしてきたって反省してるんだ。
岳を抱けないなら誰でも一緒だって、来るもの拒まず抱いてきた。男も女も。でも、取るに足りない・・いつも空虚感が襲って来るんだよ。
岳の側だと気持ちが落ち着いて満たされていく。だから岳の側を離れたくなくて隣を陣取って。束縛してきた。
そんな俺が懺悔するのは神様でも仏様でもない、岳にしなきゃ意味がない。
俺は幸せにしたいんだよ。岳と幸せになりたい。
「今までしてきたことを今更だけど凄く反省してるんだ。これからは岳を見て岳だけを愛していきたい。俺の側にいろよ・・離れるなんて言うな・・」
「そんなこと・・約束出来ない・・・俺だって悠人以上に好きな人が・・っ!!」
それ以上の言葉を聞きたくなくて顎を思いっきり掴んだ。
「はぁぁ?!俺以外の奴を好きになるなんて許さねぇ」
掴んだその手を必死で離そうと力み出す。
「痛ってーな!!架空の話にムキになんじゃねーよ!」
「俺はお前を誰にもやりたくない。離れたくんだよ。今までのことをチャラにしてくれなんて言わない。でも、これからは岳だけだから・・愛してんだよ。他の誰も好きになるなよ・・」
俺はお前に真摯でいたいんだ・・腹ん中で思ってることを全部吐き出した。
「なんなの・・・なんなんだよ・・・馬鹿悠人」
「だから真摯に包み隠さず言ってんだよ」
「ちょっとは包み隠せよ・・」
「だから真摯に・・・」
「で、なんで悠人はそんな上からなんだよ。お願いしてるくせに偉そうだよな・・」
「そりゃ、俺が上だから?」
「なっ!!・・・馬鹿悠人!!」
胸を叩く岳は耳まで真っ赤にして、誰も抱くほうだなんて言ってないのにさ。
可愛いな、おい。
「それは冗談だけど・・もう俺だけな。この先ずっと」
急に大人しくなってトンと額を胸に当てもたれかかる。その身体を抱き締める。
「悠人が・・俺のそばから離れる時が来るまで、どんなことがあっても離れないでいようと決めてた。俺・・こんなだし・・誰かを抱くなんて出来ないし・・女ダメだし・・その時がきたら、俺を好きになってくれる奴を探そうと思ってた。でも・・考えると怖くて・・・俺を選んでくれて・・良かった」
俺が離れるまで待つ気でいたのか?どれだけの気持ちで側にいたんだよ...
ごめん。ごめんな、岳。
俺だって・・・
「俺だって.....いつ飽きられて岳が離れていくかビクビクしてた。辛そうに笑う顔を見て、まだ俺のことを好きでいてくれてるってホッとしてた」
「・・・酷い」
「ごめん」
「だから大事にしたい。ずっとこれから、一生かけて幸せにする」
「・・・馬鹿悠人」
「ほっとするな、それ聞くと。岳が囁く呪文みたいで好きなんだよ」
「へんなの....」
馬鹿悠人。その言葉に何度もほっとしたんだよ。
呆れてても、飽きられてないって勝手に思ってた。
「岳、好きなんだ。ずっとずっと一緒にいて?」
腕の中から顔を上げる。ゆらゆらと雫が波を打つ。そしてゆっくり瞳を閉じて外へと溢した。
でもさ、堪らなく可愛い顔で笑ってる。俺の大好きな笑顔。
いつか、近いうちに。昔のように腹の底から笑い会えるその日を楽しみにな。
きっかけって分かれ道だと思うんだよ。どっちを選ぶかで道は変わってしまう。
でもさ、間違った道に進んでたとしても道しるべはあるんだ。
迷っても、遠回りしても、失敗しても。
きっと答えは・・・一つしかない。
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