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第2章 1
大学4年の夏。俺達は紆余曲折を経て、同棲を始めた。
俺の部屋に毎日岳がいる。
まあ今までも毎日来てたんだけど、ずっといるのとはわけが違う。朝目覚めれば背中を向けて眠る岳がいる。
腕の中にスッポリって感じが理想だけど、どうやら岳は違うらしい。
俺より早く起きて朝食を作ってくれる。和洋交互にそれは彩りよくバランスよくの食事は本当美味くて、今までコーヒーだけで済ませていた食生活に色をつけてくれた。
洗濯も掃除もソツなくこなす岳は、今まで親父さんと二人暮らしをしてきた賜物なんだってわかる。
男でこんなに主婦のような完璧な家事が出来る奴はそうそういない。ましてハタチそこそこの奴でこんなに整った暮らしをしてる奴は、そう、俺の周りにはいない。
登校するまでの間に朝の家事が終わる。遅くなる日と雨が降りそうな日は部屋干しをしていくし、玄関は毎日綺麗に整えられている。
親父さんが岳に教え込んだのか?お袋さんがあんなことになって2人の生活で岳の役割は大きかったんじゃないだろうか。そうだよ、父子家庭なんだから大変だったと思う。
毎日一緒にいて、気にしたこともなかった。俺は、岳の何を見て今まで一緒にいたんだろう。
天井を見つめてベッドに横たわり岳が動き回る気配を追って見る。
一緒に暮らそうと話した時、嬉しい顔を一瞬見せ、すぐさま曇った。親父さんのことを考えたんだろう独りになれば不自由することが不安だったんだと思う。
そんな思惑とは違っていた。親父さんを説得しようと岳の家に行った時、親父さんは俺達の話を最後まで聞いてくれてこう言ってくれた。
「岳の人生なんだから、悔いないように生きればいいよ」
その言葉の中には、岳の幸せが沢山詰まってる気がした。
『悔いなき人生』
俺と生きて悔いなく幸せにしたいと、幸せが詰まった人生だったと思える生き方を一緒に最期までしたいと初めて思った。
共に生きてきた22年が悲しませた22年なら、ここから上書き出来るほどの幸せを岳の人生に彩りを付けたいって誓ったんだ。
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