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そんな岳と俺は就職も決まり卒論の準備を始めよう思ってた頃だった。
「悠人、お願いがあるんだ」
珍しくそんなことを言い出した岳はリビングのラグに座ってコーヒーカップを手に俺を見た。
「何?お願いって」
平静を装って聞いたけど、本当は小躍りするくらい嬉しい。岳が俺に頼み事なんてこの長い付き合いで数えるくらいしかないからだ。
頼られてる感もあるし、叶えてやるよっていう充足感もある。なんでも叶えてやりたい。岳が望むこと全部。
「悠人がよく行ってたbarに連れてって」
「bar?」
その時の俺の頭の中は、走馬灯のように俺のやらかしてたことが駆け巡る。
「ダメだ!あんなとこ岳を連れていけない」
さっきまで全部叶えてやりたいって思ってた奴は誰だよ。それでも、あの場所は一夜限りの出会いを求めて集ってくる奴らの溜まり場だ。
そんなところに連れて行けるわけねーだろ。ハイエナの中にプードル放り込むようなもんだ。
「理由は?」
「え?」
「俺を連れていけない理由」
「あっ、と、それは、いや、ガラが悪いんだよ。岳みたいに擦れてない奴が行くような所じゃ・・・」
カップを持って俯く姿に胸が軋む。俺が遊び惚けている間、岳は俺を一途に思っててくれた。そんな後悔しかない、あの場所に、今更俺自身が行きたくないんだよ。
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