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「あれは落としに入ったよね」 ニヤニヤしながらタバコにを吹かす隣の男。 肩を抱き寄せ耳元で何かを囁くハイエナ。靡く風でもなくされるがままな岳。それを後ろから指を咥えて見てる俺。でも、ただ指を咥えてるだけじゃない。チャンスを待ち構える・・・ハイエナ。俺も同じか。 一頻り顔を寄せては微笑み合う光景に腹ん中から怒りは湧くし、胸は締め付けられるように痛い。今すぐ岳の手を取ってここから出て行きたい、抱きしめて俺のモノだって抱きしめて取り込みたいよ。 そんな光景をどれくらい見てたんだろう、灰皿の中は吸い殻の山が出来ている。まあ、半分は隣のやつの仕業だけどな。 「お前も相手探したら?」 いい加減隣から移動しろよ。 「悠人君のお手並みを拝見するんだから。こんな風にただ見てるだけの悠人君は初めて見るし、面白そじゃん」 横目で俺を見てクククっと笑いを噛み殺す。こっちは必死だっていうのに。 「チャンスがあればな、そんな必死なわけじゃないし」 グラスの中の甘ったるい酒を含んで視線を岳に戻す。 岳・・・今何考えてる?お前が惚れてるのは俺じゃないのか? 消化しきれない想いに苛立って悲しむ姿は数えきれないくらい見てきた。傷つく岳は色っぽくて、噛み締めた唇が堪らなくて何度もキスをした。 その色香に狂う奴が居るのは許せない。イライラがMAXになり始めた時、マスターが注文を取りにきて灰皿を替えてくれる。 目が合えば、ニヤリと笑って「悠人、怖いからその視線。あの子狙ってるなら手を貸そうか?」 これは高くつきそうな誘い。 「サービスだからどうぞ」テーブルに置かれたカクテルとコースター。 そこに書かれた電話番号と文字。 「彼がやばいよ。いつものところで」 そう書かれてあった。

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