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透吾とくだらない話をしているとドアが音を立て、華奢で綺麗な男が入ってきた。 この店で綺麗な男って表現するとなんだか意味が違ってくるけど視線は持ってかれる。無意識にここにいれば相手を探してしまうからなんだろうけど。 今の俺はどんな奴が来て、どんなことが起きるのか、早く岳を俺の隣に置きたい。それだけで頭がいっぱいで、相手を探すなんてことは微塵も考えてない。相手なんかもういらないしな。 この店に来て相手を探さない日がくるなんてな。岳を抱きたくて怖くて岳の代わりを探して彷徨って、なのに、岳を抱きたくてここを早く出たいと思うことになるとは。兎に角こんな茶番早く終わらせて岳を抱きしめたい。 店内を見渡し誰かを探してるように見える。お目当の相手を見つけて手を振り駆け寄って行く。岳の隣に陣取る彼奴も入ってきたそいつをじっと見つめた。 岳を口説いてるくせに他の奴もチェックかよ。どう見たって岳の方が断然綺麗だしいい男だろうが。岳と天秤にかけるなんて御門違いもいいとこだ。月とスッポンとまでは言わないが岳の方がいいに決まってる。岳をどうにかされるのも嫌だけど、比べられるのはもっと嫌だし。 「何だよ彼奴」 ポロリと溢した言葉を透吾がひろう。 「まあいいから、見てなって。面白いもんが見れるから」 鼻歌でも歌いそうに透吾が笑う。やわく抱いた肩はいつの間にか離されていて岳はマスターと話してる。その会話に時々混ざるようなよそよそしい雰囲気に変わった。 「どうなるんだろうね、カケル君マジ切れしてるよ、あれ」 透吾の話は見えないが、こんな会話はいつものことで独り言のようなものだ。さっきの奴がカケル君か?マジ切れする何かがあるのか。男同士のいざこざは醜いよな・・なんて戯言のようなものなんだ。 そんなことはどうでもいい話で、今はどんな奴がこの状況をぶっ潰してくれるのか、そわそわしながら待っていた。

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