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透吾の『待て』をじっと待ってみることにした。俺が電話した相手は来ないみたいだし、あの様子では岳は靡かないとみた。
さっき入ってきたカケル君とやらのテーブルから1人の男が立ち上がり、岳を落とそうとしていた奴のそばに立つ。何かを耳打ちするといきなり立ち上がりカケル君のそばに駆け寄った。
その瞬間。カケル君は思いっきりグラスの液体をそいつにぶっかけた。
いい感じの音楽が一瞬止まったかのように店内は静まりかえる。言葉もなくにらみ合った2人の間にマスターが割って入った。
「ヤイ君が悪いんだよ。俺には家にいろって言ったのに自分はここにきてナンパなんて」
狭い店内に響き渡る声にそのことがどうことかなんとなくわかる。2人は付き合ってて相手がいない間にナンパしてたという事だよな。そしてカケル君は紛れもなく俺が電話をした相手だってことだ。
確認するために友達に駆け寄って状況を聞いたってことか。
空になったグラスを取り上げてマスターが2人に座るように促す。さっきの空気を変えるようにマスターが配慮してるにも関わらず、カケル君はズカズカと岳に歩み寄った。
「あれ俺のだから!君は浮気。勘違いしないでよね!」
岳に食ってかかるカケルは今にも掴み掛かりそうな勢いで岳に迫る。岳は・・・至って冷静で綺麗ないつもの岳だけど。
「彼は関係ないだろ!ただ隣に座ってただけだから!」
「そんな嘘、誰が信じる?証人がいるのに?」
もうこうなったら店内にいる客は痴話喧嘩に巻き込まれた感じになってしまった。
「君らさ、そういうの家でやれば?迷惑なんだけど。それに勘違いしてるみたいだけど、俺、待ち合わせしてるから」
シレッと言いのけた岳は素知らぬ顔でグラスを傾ける。
バツが悪そうなカケル君は踵を返し足音を立てながらドアの外に出て行く。それを追いかけるようにナンパ野郎が出て行った。
雰囲気を取り戻した店内に、1人、俺1人が釈然としない戸惑いと苛立ちでどうにかなりそうだ。
待ち合わせってなんだよ。俺とここに来たくせに、誰と待ち合わせしてるっていうんだよ。
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