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しっとりと合わさった唇は欲情させるでもなく煽るわけでもない欲しがって求めてくる岳のキスじゃない。
これはなんだ?岳は何を考えてる?
戸惑う俺に仕掛けた岳は瞳を合わせたまま唇を離す。うっとりと俺を見る目はさっきとは違うどこか挑発的に見えた。
「悠人、ちゃんと言ってあげて?」
誘う言葉は俺の気持ちで、透吾にそれを言えと。もうここへは1人で来ることはない。いや、岳と一緒にも来ないと思う。誰かを探す必要もなければ、マスターには悪いけど、もっと洒落たBARはいくらでもある。
岳の視線は逸らされることはなくて、じっと見つめてくる。
何度でも言うよ。俺は岳がいればそれだけでいい。岳の腰に腕を回せば抵抗もなく俺の腕の中に収まる。
「岳は俺の恋人。馬鹿な俺のためにずっと待っててくれた、ね」
視界の隅に棗君が顔を覆ったのが見えた。申し訳ないけど君なんて比じゃない。比べるものなんていない。
そう言えば透吾は腹を抱えて笑い出した。
「え?何?悠人ってそういうキャラ?言っちゃ悪いけど、尻に敷かれてる系?ヘタレっぽく見えるのは気のせい?」
尻に敷かれてる!?ヘタレって・・・誰に言ってる!?
「喧嘩売ってんのか?!」
身を乗り出せば、手のひらを見せて防御しようとする。
「待って待って!喧嘩なんて売ってないし。意外な悠人が見れて、さ。いいじゃん。人間味があってさ。イケメンなのにいつも面白くなさそうなツラしてたし?惚れてる奴がいるって、悠人も惚れるんだって思っただけだから!こんな綺麗な子・・・やっぱ悠人はすげーなって思ったんだ」
すげーなんて思ってないくせに。でもまあ、岳を褒められるのはいい気分だから、まあいいことにしてやる。
「悠人はちゃんと言葉でも態度でも愛情表現してくれるよ。だからもう"浮気"はしないんだよ」
ね?と相槌を求めるように岳は肩先にコトンと頭を付けた。
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