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ドアの外は冷んやり冷たい風が頬に当たる。秋が近づいてる気配の風。
手を引いていた岳はスルリと手を解き俺の横に並んだ。足元だってフラついてない。やっぱり酔ったフリだったんだな。だけどあえて聞く。
「岳、酔ってる?大丈夫?」
その言葉を借りて腰に手を回した。
「酔ってない。大丈夫」
返事とは裏腹に身体を預けてくる。明け方に近くなった繁華街は人もまばらでこうやって酔っ払いの介抱してても何の不思議でもないから、ここぞとばかりに抱き寄せた。
「待ってた奴が来なくてよかった。気が気じゃなかったよ」
そいつと岳がって思うだけで苛立ちが湧き上がる。こんなに心配でイライラして、落ち込んで、俺ってこんな感情の起伏が激しかったんだって今更驚いている。
岳のことになればこうなるのか。思い出すだけでムナクソ悪いナンパ野郎との後ろ姿。駆け寄って引き剥がして抱きしめて閉じ込めておきたい衝動を精一杯の理性で押し殺した。そんな理性があるってことにも驚きだ。
「あいつはもう来ないし、。会えないんじゃないかな・・・最後にもう一度会いたかったな・・・」
そんなに恋しく思う奴が岳の心の中に存在してる。俺じゃダメなのか?俺よりそいつのことが好きになってしまったのか?
何度も聞いたんだよ、このフレーズ。
泣いて縋って、抱きしめた岳が何度も俺に言った言葉だ。
『俺じゃ駄目なの?何で他の人を抱くんだよ』
その度俺は、なんて言った?
『愛してるのは岳だけだよ。他の奴は排泄処理だから・・・・』
その言葉をどんな風に聞いてたんだ?俺は自分の都合のいい関係だけを選んで、楽しんできた。
楽しくなんてない。そう思いこませてただけだ。快楽はそこそこに楽しんでいたはず。ただ、岳以外なら誰でもいい。岳に触れれば何かが壊れていくと思い込んで・・・怖くて逃げてたんだ。
「岳・・・愛してる。愛してるんだ。誰も好きになんてなるなよ・・・お願いだから俺だけを好きでいてほしい。俺、逃げないから。もう絶対逃げて岳を置いて行ったりしない」
最後に会いたかったと想い募らせる岳の言葉に湧き上がる感情の中の大きな不安。
ただ縋ってのたうち回るみっともない繕わない俺をもう一度好きになって。
見上げた見開いた瞳。それはもう叶わない遅すぎた俺の気持ちに戸惑ってるのか?
「悠人、行きたいところがあるんだ」
脈絡のない返事に戸惑いながら、うんと頷いていた。
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