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橋の近くになって岳が運転手に止まるように促した。
橋までは50メートルはあるだろうか。脇に止まったタクシーから降りて歩道に立った。懐かしい景色。ここを岳と並んで毎日、何年も歩いたんだよな。小学、中学、高校、買い物、塾、歯医者だって一緒に言った。あれは買い物の次いでだったけど。治した歯の確認までしたよな。そんなことがその時の情景が頭の中を駆け巡る。
いつの間にか2人に出来た思い出がこの道、この街には沢山ある。見渡すだけでも沢山ある。
この橋もそう。高校の頃、河川敷にあるベンチで日が暮れるまで話した。あの時、何の話をしたんだっけな・・・
岳の嬉しそうな顔と泣き顔が同時に脳裏に浮かぶ。
繋ぎ直してきた手は相変わらず小指を絡めてくる。それだけで幸せな気分になって、求められてることに心が穏やかになるんだ。岳は俺の特効薬になってるんだよな。
橋に向かって歩き始めると岳の小指に力がこもり、話し始めた。
「どこを見ても悠人との思い出ばかりだよ。話しながら見てた所でさえ、俺には思い出になってる。下を向けば道だって脇に生えてた雑草だって、悠人の声と一緒に思い出としてインプットされてる」
俺と同じことを考えてることでさえ嬉しく岳の一部になれている気がして嬉しい。こんなことで嬉しくなる俺は、自分が思ってる以上に岳のことが好きだったんだって今更ながらに思い知らされてる。
橋のふもとを迷わず左に曲がり歩道にはいる。河川敷に降りる階段にゆっくり足を進めた。何も言わなくても同じ方向へと歩いていく。そうやって一緒に歩いてきた。歩く速度も俺の左側を歩くことも。何も変わらない俺と岳の定位置なんだよな。
昔はテトラポットが沢山ならんでた川側は今は様変わりしていてベンチは少し移動されていた。
木のベンチの埃を払って俺が腰掛けると連なって岳が隣に座る。まだ街灯の光が頼りの時間帯に川の静かな流音に2人で耳を向けた。
何も話さず、じっと俺のそばに座る岳との時間は会話なんてなくても苦痛じゃない。元々物静かな岳とは今までにもこうやって静かに時間を過ごしたことは数えきれないくらいにあった。
何かに没頭している岳の横顔が綺麗で数えきれないくらい見惚れた。
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