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崩壊──03.*

   まだ短くなっていない煙草を勝手にテーブルに擦り付け、ソンリェンは火を消した。  ソンリェンの瞳は1年前と同じように相変わらず冷え冷えとしている。  久しぶりの血が下がっていく感覚に身震いし、瞬時に後ずさる。が、腰を捕らえられて引きずり戻される。 「な、んで」 「溜まってんだよ」 「やっ……」  どうやら向かう先は、テーブルの側に横たえられている小さなベッドのようだった。 「手間とらせんな。飼い主様が直々に会いに来てやったんだ、使わせろ」 「やだ、やっ……はな、せ」  あのベッドは育児院から譲ってもらった、トイが疲れた体を癒すために静かに眠る、やっと手に入れた安住の地だ。そんな所でなんて絶対にしたくない。トイはもう自由なのだ。  けれどもソンリェンは相変わらず話を聞いてくれない男だった。ぐんっと両手首を片手で捕らえられ強くベッドに叩きつけられてしまった。  衝撃に胸が痛んだが、なおも逃げようと足掻けばソンリェンに舌打ちをされ、華奢な両足に足を乗せられ動きを封じられる。  二人分の人間の重みでベッドが軋む。もとよりトイの体は実年齢よりも幼く見え、細身ではあるが20歳を過ぎているソンリェンとは体格差があるためまともな抵抗すらできずにさっさとズボンをずり下げられる。  隙間から突っ込まれた指の冷たさに臀部が震えた。 「ひゃっ……ぁ、あッ、」 「玩具風情が、逆らってんじゃねえ」  ずぐり、と下着の隙間から勢いをつけて指が挿入された場所は、トイの女性としての部分だった。  トイは、男性としての性と女性としての性の両方を持っている身体だ。  中性的な顔立ちの癖に喉仏はある。華奢ではあるが女性のようにふくよかな体でもなく、棒のようだ。下半身には男性器と女性器があり胸の膨らみはそこまでない。異常な体だという自覚はあった。だからこそ、ソンリェンを含む4人の男たちに目を付けられ囲われ、格好の遊び道具にされていたのだ。  彼らにとってトイは人間ではなかった。それは捨てられた今でも。 「や、だ、あ、そっち、はいや、だ……!」 「黙れ、俺がどこの穴使おうがてめえに関係ねえだろ」 「く……ぁあ」 「濡れてねえな」 「や、いた、ぁ、痛い、ん、く」  久しぶりに感じる裂けるような痛みに喉が喘ぐ。じたばたと暴れるが四肢を押さえつけられているため、腰を浮かせれば浮かせるほど指を迎え入れることになってしまってさらに痛みが増した。  せめて慣らすためのものあればなんとか悲鳴は堪えることもできるのに、膣内の浅い所も、深いところも、ぐりぐりと擦られ苦痛を噛み殺すこともできない。  内部をまさぐってくるソンリェンの指の動きは明らかに検分だった。  太い親指も挿入されて入口も中もぐぷぐぷと角度を変えて四方に押し開かれ、具合を確かめられる。今の状態でどこまですることができるかという風に……ぞっと背筋が戦慄いた。 「客取ってねえってのは本当らしいな、この狭さじゃ……少なくとも最近は、だがな」 「いっ、そ、そんりぇ……痛っ、く、ぅ」 「うるせえ、まだ調べ終わってねーんだよ」  どうでもいいことのように吐き捨てられる。もちろん指は引き抜かれず、それどころか本数は増えていくばかりだ。  痛くて苦しいのに、1年前に長い間酷使され形も変わってしまっていた膣壁は、ゆっくりと内部を掻き回す異物に合わせてゆっくりと広がっていった。まるで異物を迎え入れるように。 「ぁ……、ふあ」 「まあ、突っ込んじまえば広がるな」  そのまま奥まで突き破られてしまいそうな恐怖にガタガタと歯が震えた。 「おいトイ」 「んあ、ひ、あ」  久方ぶりの明確な恐怖にあっと言う間に半狂乱に陥ってしまったトイは、ずくりと奥まで指を突き入れられ声もなくしなった。胎内に響く鋭い痛みと衝撃に身体が縮こまる。 「か……ふ」 「本当にお前、誰ともやってねえんだな」 「や、も、や、ぁ」 「嫌じゃねえ答えろ。じゃねえとこのまま突き破るぞ」  どこを、とは言われていないがソンリェンが指を突き入れている場所に違いないなかった。  そういえばトイが壊されたあの日も、ソンリェンに同じことを言われた気がする。  そろそろ皆が飽きてきた頃に、つまんねえから声を出せと揺さぶってくるソンリェンに命じられたが、叩きつけられ続ける衝撃の嵐にほぼ気を失っていたトイは掠れた空気しか絞り出すことしかできなくて、その結果実行されたのだ。  今までで初めてと言ってもいいほどの奥を串刺しにされて血が出た。あれがはっきりと覚えている記憶の最後だった。その後は全ての世界がぼやけていた。  眼のふちに涙が溜まっていく。歯を食いしばって、トイはこくこくと頷いた。 「本当か」 「して、ない……誰とも、本当に」  言いながら、また頷く。  ソンリェンは必死の形相のトイにゆるりと笑みを浮かべた。見たことのない笑みだった。 「そうか。じゃあ……濡らしてやる」  一瞬、柔らかく伏せられた睫毛に驚いた。そして解放された手首にも。 「え、あ……っ」  呆けていると、ずちゅんと勢いよく指を引き抜かれた。  内壁ごと引きずり出されるような痛みと感覚にびくびくと身をよじっている間に、完全にズボンと下着を全て脱がされてしまった。  ベッドの下に乱雑に放り投げられたそれらが視界の端で弧を描く。  空気に晒された下半身が冷たくて、直ぐに脚を閉じようとしたのだが足首を捕えられそれも叶わなくなる。そして、眼前に広げられた光景に目を見開いた。 「ぇ……」  文字通り固まってしまった。  今更、剥き出しの下半身を舐め回すように見られた所で羞恥なんてものは感じない。そんな感情を覚える暇もなく、いつも恐怖と苦痛と喪失感と絶望感に苛まれていたからだ。  だが今トイが感じているのはそれらの感情とは全く違うものだった。しいて言うなれば純粋な驚き、だ。  トイの股の間に、ソンリェンが顔を埋めようとしていたものだから。 「……ぁっ!?」  萎えた幼い男性器をくいと上にずらされ、現れた低い双丘に赤い舌が伸ばされる。 「ひっ……」  つう、と皮膚をなぞる湿った感覚にびくりと腰が跳ねるが、押さえつけられる。割れ目を下ってきた舌が乾いた膣のふちをぬるりと舐め回し、そのままにゅるりと内部に入ってくるところまではっきりと見てしまった。  嘘だろうと腰を引いて足を閉じようとするが、体重を乗せられさらに深く頭を埋められてしまった。 「ッき、汚っ……」  あまりの光景に呆け、しかし与えられる粘つく感覚のリアルさにさらに混乱した。他でもない彼にこんなことをされたのは監禁されていた間一度たりともなかった。  挿れやすいようにと指で適当に解されることはあっても、直接舐められるなんて初めての経験だ。  ただただ慄く。しかもトイはまだシャワーすらも浴びてないというのに。 「ひ、ゃぁ、ゔあ……!」  トイの蜜口に唇全体で吸い付き、舌で味わいすするソンリェンが信じられない。  ぺちゃぺちゃととんでもない所から零れる濡れた音に、たまらず自由な両手でソンリェンの金色の頭を掴んでしまったが、煩わしそうに振り払われた。 「そ、そんりぇ……」  弱弱しく抵抗を続けようとするトイにいい加減面倒になったのか、一瞬だけ空色の瞳に睨みつけられた。  首を振って拒絶を示す。殴られるのは恐ろしいが、あのソンリェンにこんなことをされるのも同じくらい恐ろしい。  突然歯を立てられて肉を噛み千切られてしまうのではないかと、あり得なくもない恐怖にふるふると震える。怯えるトイに、ソンリェンの唇が僅かに離れた。 「閉じるな。股開いてろ」 「や、ゃ、やだ……ひ」 「うるせえな、よくしてやってんだろ」 「や、めッ、きもち、わりぃっ……!」 「あ?」  す、と青色の瞳が光を失った。失言だったと気づいた時には既に遅かった。大きな手のひらにがっと口を鷲掴まれギリギリと力を込められる。 「調子に乗るなよ、てめえ」  吐息一つ分だけ離れた距離。冷えた瞳に射抜かれて言葉を失った。

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