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勇敢な子豚──16.*

   煙草を吸っている時が多かった気がする。こういった奉仕を命じられる時は。  気がするというのは、正直ほかの3人に比べてソンリェンとするセックスは淡白で印象が薄かったからだ。  もちろんソンリェンは鬼畜で暴力的で、3人と同じように歪んだ破壊衝動をぶつけてくる相手ではあったが、彼らに比べて執拗ではなかった。  自慰の片手間にトイを使う、終始そのような感じだった。  朝勃ちした時や、その気になった際に部屋に呼び出されては、用があるのは下半身だとばかりに下を脱ぐよう命じられ突っ込まれる。気まぐれに膣や尻を使われ、気分でこうした奉仕を強要される。仲間と一緒に、興が乗れば輪姦される。  他の3人のように、朝まで同じベッドで眠ったこともない。事が終わればさっさと追い出されていたからだ。望んでいない激しい愛撫の合間に睦言を囁かれたことも、卑猥な言葉を強要されたりもしなかった。  エミーとレオによくさせられていた恋人ごっことやらを彼としたこともない。トイが何かしらの粗相をした時のお仕置きだって、他人がやっているのを見かければ混ざって暴行してくる程度だ。  それに、両性のトイに対して気味の悪さのような感情すらもきっと抱いていたはずだ。彼はトイの男性器にはほとんど触れようとはしなかったのだから。彼の地雷を踏み抜いて踏み潰されそうになった時はあったけれども。  彼は他人に対する興味が薄く、常にトイのことなどどうでもいいという態度だった。トイを捕らえた時すらソンリェンはおらず後から混ざってきたくらいだ。皆が遊んでいるから手を出す、ソンリェンにとってトイはそれだけの存在だった。  だから尚更わからないのだ。どうしてソンリェンがトイを探しにきたのか。  ソンリェンはあの中で一番モテる男だと、レオがよく愚痴っていた。顔の造形が女性と見まごうほど美しいからという理由もあるのだろう、恋人が何人もいる様子だった。トイは屋敷の外には出してもらえなかったが、屋敷に帰ってこない日はソンリェンが一番多かった。  性衝動に不自由はしていないはずだ。なのになぜ、トイのところに来るのかがわからない。  暴力的な行為だって、引く手数多の彼ならば恋人たちにそういったプレイをさせることも出来るはずだ。  外では清廉潔白な紳士を装っているロイズと違って、屋敷の中でも外でもソンリェンの冷たい他者への態度は基本変わらないのだから。  俺のもンだなんて台詞も、今まで吐かれたこともなかったのに。  ダメだ、考えてもわからない。ただトイは前と同じようにソンリェンの玩具になることを求められている、それだけは確かだった。 「んっ、うう、ん……」  口に含んだ時、最初に思ったのは慣れた味だという感想で、そんな自分の思考が嫌だった。  これまでと同じように、口の中に受け入れた太く長い肉の竿を必死に頬張る。ソンリェンのそれはトイの小さな口に余るほど大きい。  いくらしゃぶり慣れているとは言え、性処理道具として扱われているという嫌悪感はじわじわとトイの身体を蝕んでくる。 「──ぅ、ぐ、ふ、ぅ……」  直ぐに圧迫感を増してきた性器の根本を手で押さえながら、包み込むように舌を絡める。  トイの唇の隙間から零れる、濡れた音が狭い部屋に響いていた。時折ちゅぽんとわざと音を立てて口腔から引き抜き、根本部分を小さな指で擦りながら太い根本からひくつく割れ目までを往復するように頭を動かし、舌を這わせる。  トイの唾液で濡れそぼったそれが僅かに硬くなれば喉の奥へ咥え込み、血管が脈動する裏筋を上顎にこすり付けて頬と舌でしゃぶる。これを何度か繰り返すうちに口の中の滑りがどんどんと増してゆき、太く長い杭が徐々に強い芯を持ち口の中で存在を主張し始めた。  どこをどう愛撫すればソンリェンのこれが反応するのかなんて、嫌でも覚えている。 「おい」  ふいに声をかけられて驚いた。  口で咥え込まされている最中、彼に声をかけられることなんて滅多にないのに。 「顔上げろ」  耳に慣れない命令に視線を上げる。ソンリェンの青い目とかちあった。細められたそれはいつも通りの鋭い光を放ってはいたが、ちりりと朱が混じっているようにも見える。薄く開いた口からは熱い吐息が漏れていて、快楽に、染まりつつある顔だった。  しゃぶらされている時にソンリェンの顔を見たのは初めてだ。  言葉なくじっと見降ろされて居心地が悪くなる。命じられた意味がわからず、もしや上顎で擦り上げろという意味かと実行すれば、ち、と短い舌打ちが飛んできた。 「違ぇよ」  やはり違うのか。 「見ろ」  機嫌の悪そうな顔にますます混乱する。何を見ろと言われているのかがわからない。  慌ててしゃぶっているそれを口から取り出して凝視する。  濡れそぼった肉棒をじっくり見つめながら舌での愛撫を再開するが、今度は首の後ろに痛みが走った。短い後ろ髪を引っ張られたのだ。 「いッ……」  ぐんっと後ろに仰け反って、また青い宝石のような瞳に睨みつけられた。そこで初めて気づいた。見ろ、というのは彼の目のことなのかもしれないと。 後ろ髪を鷲掴まれたままぐっと前に押し込まれる。慌ててソンリェンから視線を逸らさずに、赤黒く変色した性器にしゃぶりついた。とろとろと溢れる透明な雫を精一杯追えば満足げに手を離された。  それで確信する。ソンリェンを見ながらしろということだ。  なぜ、と問いたかった。腹の底から嫌だなと思った。蛇のように纏わりつく視線を感じながらこういうことをするのは気まずい。  しかし少し目線を伏せればソンリェンの機嫌が一気に急降下してしまう。  逃げ場はないのだと諦めて、ソンリェンの目を見つめながら舌での愛撫を続ける。 「ぅ、……ん、ふ」  膨らんだ根本を手で擦り上げながら、喉に溜まったソンリェンの体液とトイの唾液が混ざった苦い液体をこくりと飲み下す。臭いそれが溢れる先端をじゅるりと吸う。  口の端から零れ落ちてくる液体が顎を伝い、古い床にぼたぼたと染みをつくっていった。肉の形に沿うように口をすぼめ、頭を動かし緩く挿入を繰り返しソンリェンのいいところを丹念に舐る。  ソンリェンは必死に舌を動かすトイをじっと見降ろしていた。このままでは穴が開きそうだ。今すぐに視線を逸らしたくてたまらなかった。  ふいに、ソンリェンの手がするりと伸びてきた。  顔の横にかかった髪を梳かれてびくつく。何か酷いことをされるのかと身構えたが、ソンリェンは何をするでもなく相変わらず熱の孕んだ視線でトイの髪をさらさらと撫ぜてくる。  ──なんだ?  まるで髪の毛一本一本に触れたがるようなその動き。今のソンリェンは、表情も言動も全てにおいてこれまでの彼らしくなかった。  ぞわりと、トイの中で何か恐ろしいものが膨れ上がる。  はやく終わらせてしまいたくて、唇で肉を食み歯と舌で緩く刺激を繰り返しながら頭をできる限り早く動かす。  激しいストロークを繰り返せばだんだんと溢れる液体の量も多くなり、苦みも臭いも増していった。 「んっ、んむ、ん、ん、ンん……ふ、はぁ」  喉の奥いっぱいまで男根を迎え入れ締め上げる。ソンリェンの肉が膨張し始めた。  狭まった部分に凶器が入り込んでくるのは苦しいが、それよりも彼と長時間目を合わせ続けるほうが耐えられない。  だが、無理に激しくし過ぎたせいで喉の奥の薄いところにそれを当ててしまい、反射的に硬い肉を口から取り出し盛大にえずいてしまった。 「え、ぁ……っ」  何度か咳き込むが止まらない。このままでは怒られてしまう。慌てて許しを請うために手の中のそれに口づけし、涙で潤んだ瞳でソンリェンを見上げる。 「は……ふぁ」  きっと凄い顔になっていたのだろう。ただただ荒い呼吸を繰り返すトイにソンリェンが少しだけ目を見開き、ごくりと唾を飲み込んだ。  切羽詰まったような台詞が、頭上に吐き捨てられる。よく聞こえなかったがたぶんクソとかそういうものだろう。  同時に、がっと頭を鷲掴まれ無理矢理頭を引き寄せられた。制止する暇さえも無かった。 「ん、ぐ……! かは、ゥ」  ずん、と奥まで突き入れられて目を見開いた。口をすぼめていることができず、痰が詰まったかのような咳が漏れる。 「ん、ふ、ぐ、ん」  開いた唇の隙間を縫うように頭を揺さぶられ、がつがつと喉の奥に、大きな肉の茎をねじ込まれた。

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