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お出かけ──26.*

「っあ、はッ、ぁ、あぁ、あ」  ずり下がってしまった足を捕らえられ、再び肩に乗せられる。ずん、とより一層激しく突かれて、トイは頭をシャワールームの壁に擦り付けて天井を仰いだ。 「ひぁ、ぅ……ぁ……」  抵抗することが許されていない両手で、背後のタイルの床をきしりと掻きむしる。赤ん坊のように胸元まで抱えあげられ、激しく腰を打ち付けられた。 「あ、アっ、っ、あ──……」  太い杭に直腸を抉られ、喉から悲鳴が押し出される。頭上から落とされるソンリェンの荒い息。断続的なその熱さに、終わりが近いことを悟り吐き出される瞬間に身構える。  ソンリェンが小さく呻き、一際腰を大きく打ち付けてきた。 「──かふ」  大人二人がぎりぎり入れそうなほどの狭いシャワー室の壁だ、くねる背で壁を這いあがることでしか快感を発散させることができない。  だが壁に滴る水滴のせいでずるずると滑り、結局ソンリェンの腕の中に戻ってしまう。縋りつけるのはソンリェンの広い肩しかなかった。 「あ、ぁ……あ、あぁ、んぁ……」  どくどくと、体の奥に注ぎこまれる感覚に足指を伸ばし頭を振って耐える。また中に出された。  ずっと挿し込まれている部分が膣内ではなく、その下の窄まりであることだけが救いだった。 「は、……はぁっ」  一気に身体が弛緩する。覆い被さってくるソンリェンの体から放たれる汗の臭いに眩暈がしそうだ。  今の彼は全裸で、裸のソンリェンに犯されるのもまた初めての経験だった。彼はいつも使用する部分だけ曝け出していたから。  細身で、しかしほどよく筋肉がつき均整の取れた肢体は棒のような身体のトイとは何もかもが違う。  部屋に戻ってからシャワー室に押し込められて、体についた泥を落とされて性急に突き入れられてもう何時間経っているのか。  水に濡れて重くなった瞼を上げることさえ億劫だった。  水浸しになったトイの服は原形を留めていないほどぐしゃぐしゃで、シャワー室の外に投げ捨てられている。窓がないので時間の感覚が狂っているがきっと午後になっているのだろう。  ここにくる前に散々泣き喚いたのもある。延々と続く交わりのせいでトイの身体はくたくただった。  やっと余裕も出て来たのか、ソンリェンがきゅっと蛇口を捻りノズルから溢れる湯の放出を止めた。  互いの呼吸が、荒かった。 「そ……んりぇ、も……もう」  少しだけでいいから休ませてほしいという懇願も聞き入れられずにここまできたが、もう限界だった。ソンリェンだってそうだろう。  壁に押し付けられ宙に浮いていた足は今や床に着き、ソンリェンも膝をついた状態になっているのだから。立ってすることも出来なくなるほど、彼も疲弊しているはずだ。  それなのに、ソンリェンはトイの身体を貪ることを止めない。噛み付くように口づけられ、再び嵐のような交わりを再開させられる。 「ん、んふッ……」  激しい情交にまだ息も整っていないのに、好き勝手に口内を蹂躙されて苦しい。ソンリェンのするキスがこんなに激しいものだったなんて知らなかった。  呼吸すらも奪われる勢いで、角度を変えて重ねられる唇は執拗だった。どこまでも貪欲なソンリェンの性欲に体の芯がぶるりと冷えた。顎を伝う唾液が火照った身体に冷たい。 「ん、んん、んッ」  うっすらと瞼を上げる。空の色が間近にあった。まるでトイの姿を片時も見逃さないとでもいうように、その瞳は開かれていた。ぞくりと、背筋が震える。 「ぅ、ふぁ……」  散々口内を舐めまわしてきた舌が、ゆっくりと引き抜かれた。絡み合った二人分の唾液が唇から垂れる。同時に中に埋められていた異物も抜かれる。 「あうッ」  ずりゅん、と、勢いよく腹の奥が軽くなり、空洞になったかのような喪失感だった。だが心は解放された。今まで引き抜くことなく連続で腹の中を掻き回されていたため、やっと終わったと安堵のため息が漏れる。しかし現実はそう甘くはなかった。 「終わった、とでも思ってんのか? 嬉しそうな顔しやがって」  トイの安心しきった顔を馬鹿にするように、口角を上げた青年に身震いする。まさか。 「は、ぁ……も、も、ゆる……」 「うるせえ」  容赦なく、未だに仰け反ったままの肉の塊が埋められていく。 「も、むり、……ッぁ、あ、ああ、ぁ、ア」 「まだ足りてねえんだよ、しっかり締めろ」  何度も吐き出され貫かれてぐちゃぐちゃにとろけきった内部ではあるが、一度完全に引き抜かれたそれに再び押し広げられれば苦しい。ミチミチと埋められていく感触が、じんと響く。 「っ……ぅ」  もう声も出なかった。ひゅわ、と狭まっていた気道が広がり掠れた呼吸が漏れた。痛いぐらいに小ぶりな臀部を掴まれ皮膚が突っ張るほどに割られ、さらに深くまでと強引に突き入れられ、さすがに手足の先が痺れてきた。圧倒的な存在感に、トイは成す術もなかった。 「何が無理、だ。尻穴穿られて、まだ勃たせてやがるくせに」 「や、ぁ」 「いいんだろう? 中が、絡みついてきやがる」  ソンリェンの言う通りだった。痛みを凌駕する快感を果てしなく与えられてしまえば、貪欲にそれを貪るよう作り変えられたトイの身体はだらしなく体液を漏らし続けてしまう。  とつとつと奥を揺さぶられるリズムに合うように、幼い陰茎を扱かれればもうダメだった。  何度も精を吐き出したはずのそれはソンリェンの手によって完全に起ちあがり、むず痒い快感にビクビクと反応しっぱなしだ。  広い背中に爪を立てる。笑いを含んだ声が返ってきた。 「淫乱」  ずきりと心に突き立てられたの言葉のナイフに、ぎゅっと目を瞑る。 「この好きもの、雌豚、売女──便器」 「ぁ、や、やめ……」 「認めろ、トイ。てめえは咥えるしか能のない玩具なんだよ」  何度も繰り返されなくともそんなことわかっているのに、ソンリェンは毎日トイの人間性を否定する。 「お前は俺の、穴だ」  もう言わないでくれと首を振る。 「そうだろ? トイ」  薄い腹を掴まれ、トイのいい所を容赦なく責められ涙を零しながら喘ぐ。心だけを置き去りにしたまま、底なし沼のような悦楽に沈んでいく。トイが水辺で掬い取れなかった赤い林檎みたいに。 「、んく、お、ねが……ゆ、っくり、も、──ぃあっ、うぁッ、ひゃあァっ」  等間隔だった挿入が急に切り替わり、ばちゅんっと激しく突かれて圧迫された肺から高い声が溢れてしまった。自分でも驚くほど裏返った声だった。 「は、女みてえな声で喘ぎやがって、しっかり付いてるくせに」 「ん、ん、ぁう」  トイに声変わりがきたのは、確か捨てられる数ヶ月前だ。男にしては高い方でありながらも、少女とは違うしっかりとした少年の声帯へと切り替わったトイに、彼らは目に見えて嫌悪を抱いていた。ソンリェンもきっと、そうだったに違いない。 「トイ、お前女抱いたことあるか」 「……お、んな」  ギラギラしたソンリェンの目に射抜かれる。 「このしょぼいやつ、突っ込んだことあるかって聞いてんだよ」 「ぃあっ」  ぎゅっと痛いぐらいに男根を掴まれてふるふると首を振る。そんなことあるわけない、女性を抱く自分なんて想像したこともない。  両方の性を持ってはいるが自分はなんとなく男性よりなのだと思っていた。しかし恋というものを経験する前に男性にめちゃくちゃにされたのだ。  ましてや毎日を生きるのに精一杯すぎて、誰かとセックスどころか恋だの愛だのを経験している暇などなかった。 「ない……に、決まって」 「だろうな」  トイの返答にソンリェンは嘲笑を浮かべた。酷く嬉しそうに。 「入れんなよ、誰にも──女抱いたら殺すぞ」  冷えた指で、背中の傷痕をなぞられてぞわぞわと産毛が粟立つ。

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