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お出かけ──27.*

 ソンリェンには監禁されていた頃からよく殺すと脅されていたが、今の言い方には研ぎ澄まされた殺意が含まれていたような気がしてならなかった。 「尻の中弄られて、おっ勃てるような変態のガキが、女なんて抱けるわけねえだろうが」  何も咥えていないはずなのに綻んでしまっていた膣口に指を挿し込まれ、くぷりと掻き回される。 「っ、ん、ぅ」 「こっちは正真正銘男だけを咥える別の穴だしな。挿れてもねえのに濡らせてやがって」  ふと疑問が浮かんだ。どうしてソンリェンは此方の穴を使わないのだろうかと。普段のソンリェンは臀部よりも膣内に挿入するほうを好む。今だって最初はそこに挿れようとしていたようだったが、使う直前にぴたりとソンリェンが挿入場所を変えたのだ。  3日前の傷は未だに治り切っていないが──まさか、切れて膿んでいるから挿れるのを躊躇したと言うのだろうか。  トイがどんな状態であっても躊躇なく組み敷いてきたあのソンリェンが?  それはありえないだろう。都合の良すぎる思考回路だ。 「お前は──俺のもンなんだよ」  今だって結局、擦られ過ぎた結合部の窄まりは切れてしまっているのだから。 「そうだろう? トイ」  僅かに躊躇してから、こくんと頷く。従順でいることが、ソンリェンを怒らせない唯一の方法だ。 「気持ちいいか? 俺に犯されんのは」  また、こくんと頷く。唇を噛みしめながら。 「──はっ、じゃあ喘げよ」 「ぁッ……ぁあ、んあ──ッ」  ソンリェンは態度と返答が一致していないトイの態度に、つまらなさそうに鼻を鳴らした。そして無言で絶頂を追いかけ始めた。 「はっ、あ、ぁ、あ、ひァあ」  にちゃにちゃと腹の中を好きな角度で掻き回され、狭い内部を食らい尽くされる。あとはトイの快感も極限まで高められ身勝手に吐精されるだけだ。はやく終われと願いながら、律動の合間にガクガクと揺さぶられる視界で、ぼんやりと黄ばんだ天井を見上げる。  豪華な風呂場でトイを犯すのが好きだったのは誰だったっけか。声がよく響くから面白い、と言っていた気がする。あと直ぐに血を流せるから。そうだロイズだ。あの男は一番のサディストでトイの身体と心を傷つけるのが大好きだった。  あの頃も揺さぶられながらよく排気口を睨みつけていた。あの狭い穴から逃げる算段すらも本気で考えていた。心までは奪われまいと必死になっていた。 「1ヶ月前……お前を見つけた」  もし、当時の自分が今の自分を惨状を見たらどう思うだろうか。諦めるなと叱咤してくるだろうか。それとも仕方がないと目を瞑るだろうか。今はもう、身体に叩きつけられる快楽にさえ抗えなくなった。  その方が、楽だから。 「ぁっあぁッ、ん、あっ、あ、ひゃぁあ……」 「随分、探した。死んだと、思ってたな」  身体を求められる激しさとは裏腹に、穿たれながら耳元で呟かれた声は水滴にかき消されるぐらいのか細さだった。聞き取れたことが不思議なくらいに。 「なのにてめぇは、笑って、生きてやがって」  するりと、長い指に頬に張り付いた赤茶色の前髪を払われ、顔を上げさせられる。至近距離にある切れ長の青い瞳に一瞬だけ呼吸が止まった。  ぴちゃんと、どこかで水滴が落ちる音が浴室内に響いた。 「……ヤリ殺してやりてえよ、てめえなんか」  ソンリェンの瞳は、暗い何かを見ているかのように影を帯びていた。  恐怖、とも違う。なんだろうかこの色は。哀しみだろうか、悔い、だろうか。ぐるぐると思考を巡らせていたが、ずんっと腰を急に落とされてトイの思考も熱も一瞬で弾けてしまった。 「あっあ、ぁ、あ……で、ちゃ……ッ」  数拍遅れてソンリェンの身体が震えて、最初に比べて勢いがなくなった冷たい精液を、じんわりと腹の中に染み込まされる。内壁に浸透していく感覚にぶるぶると力が抜けていく。ぴたりと密着したソンリェンの大きな身体は、温かかった。  ふと、力なく床に落ちた右手を捕らえられる。何をされるのかと眺めていれば、ソンリェンの唇まで持っていかれた。小指の先と親指を口内に含まれ、舐められる。  爪に這わされたねっとりとした舌は、丁寧で執拗だった。まるで傷の消毒でもしているかのように。ソンリェンは覚えているのだろうか、トイの剥がされた爪を。  いやそんなはずはない。これは偶然だ、ありえない。  トイは全ての光景から目を逸らすため、重くなり始めた瞼に身を委ね、瞳を閉じた。

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