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お出かけ──28.
見えない手綱を握られたまま、ソンリェンが自宅へ訪れるようになって早1ヶ月がたった。
彼は週に4、5日は夕方になるとトイの部屋を訪れ、好き勝手に突っ込んで性欲を吐き出しては帰っていった。
ただ、いくつか変わったことがある。
例えば、あの水辺で唇を奪われた日を皮切りに、よくキスをされるようになったことだ。それは行為の最中だったり、終わった後だったり、始まる前だったり様々だ。
そして、許可を得なくとも出したい時に出してもいいと言われた。ただ、イく時は必ずイくと言えと命じられたので、激しい射精感を覚えた際に、トイは羞恥に飲まれながらも必ず吐精すると宣言しなくてはいけなくなった。
また、髪をまた伸ばせと命じられた。監禁されていた頃は長い髪を引っ張られながら背後から貫かれたりして痛かったし、壊された日に髪をざっくばらんに切られて以来必ずシスターに整えて貰うようにしていた。
正直なところ短い方がトイは楽だし好きだったのだが、命令に背くことはできないので伸ばすことにした。今はほんの少し、襟首のところまで長くなった。
相変わらず、ソンリェンと会話らしい会話をすることもなかった。
もともとソンリェンはあれやこれやと喋るような男ではないし、トイもソンリェンを前にすると緊張して吃ってしまう。
ベッド、そしてシャワー室で激しく犯されては意識を飛ばしてはソンリェンは身支度を整えて部屋から去り、次の日もまた夕方に訪れる。その繰り返しだった。
ソンリェンは相変わらず好きなように中に出してくるし、週1でトイが外に出ると予定している日は時にしつこくて、午前中には外出に付いてこられ、家に帰れば飽きることなく抱き潰された。
ただソンリェンは、トイが彼を前にすると食事をとれないことには気づいたようで、犯され尽くして夜中に目が覚めた時には、ソンリェンの姿の代わりにテーブルの上に朝食が置かれていることも多々あった。決まって、ふわふわの卵とハムとレタス。そして薄くスライスされたアボカドが入っているサンドイッチだった。
細すぎて穴の具合が悪いから、食って体重を増やせということなのだろう。
結果として必ず食べたかを聞かれるので、朝食はなるべく取るようになった。ただ食べても吐いてしまう時も多かったので、体重と身長にそこまでの変化は見られなかった。
犯され方にも変わりはない。強引すぎるせいで苦しいままだ。
ただその分快楽を強く引きずり出されるようにはなったが、それを優しいと言えるかどうかは別だ。もともと好きで身体を差し出しているわけではないし、トイはあの絶望と屈辱の生活の中で性行為自体に激しい嫌悪感と恐怖心を覚えていた。
つまり拒めないので仕方なく脚を開いているだけで、誰かと身体を重ねることは大嫌いだ。
嫌なのに無理やり組み敷かれて優しいも気持ちいいもあったものじゃない。
まともな会話もできず、ただ震える身体を貫かれるだけのトイに、時々ソンリェンも激しく苛立ち傷跡を残されるのもしょっちゅうだった。
手酷く身体を暴かれる毎日に心も体も疲弊していき、どんなに空が晴れていても心はずっと雨のままだった。育児院の子供たちやシスターと触れ合う時間はトイにらとっての安らぎだったが、一度帰宅してしまえばそこは真っ暗な檻の中だった。
遠くから自室の明りが点いていることを確認した瞬間の、目の前から光が消えていくあの感覚。
すっと血液が足首まで下がり、これから与えられる苦痛と強制的な快楽を想像しては足が竦んだ。
休めるはずの自室が、自分以外の他者に支配され侵食されていく恐怖。
あと何ヶ月月経てばソンリェンは自分に飽きてくれるだろうかと、考えるのはそのようなことばかりで。
そんな矢先だった。
トイを取り巻く環境に、新しい風が吹いたのは。
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「トイ、紹介するわね。ディアナよ」
差し出された手をトイはじっと見つめた。小さな手だった。
トイと近い歳であるはずなのに、少しだけ細くて丸い華奢な手のひら。そっと握り返して、その柔らかさに狼狽えてしまった。
これまで相手をしてきた子どもたちとはまた違う、同年代の少女の手だった。
「よろしくね、トイ」
「う、うん、こっちこそよろしくな」
新しく育児院で生活することになった少女、ディアナはトイの返答にぱっと顔を綻ばせて笑った。桃色の唇とえくぼ。そして茶色の髪と透き通るような青い瞳が窓から差し込む光を受けてキラキラと輝いている。
なぜだか、その花が咲き誇るような笑顔から目が離せなかった。その上だんだんと繋いでいる手のひらが熱くなってきて、汗も滲み出てきてしまう始末だ。直ぐにでも引き抜いてしまいたかったのに、ディアナと名乗った少女ははなかなか離してくれない。それどころか嬉しそうにブンブンと腕を振られて、その勢いにトイも何だかおかしくなって、笑ってしまった。
そんなトイとディアナの姿を、シスターは微笑ましそうに眺めていた。
ディアナと出会った瞬間、どうしてこんなにも胸が温かくなったのか。
その理由をトイが身をもって知ったのは、もう少し後のことになる。
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