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初めての友達──35.*

 何をと問う時間も与えて貰えず、躊躇なく後ろから下腹部を強く押されてびくつく。じわじわと食い込んでくる圧迫感にソンリェンの意図を正確に理解して血の気が引いた。 「ひ……」  限界に近かった尿意のせいで自然に腰が揺れ内股になる。自由な右手で慌てて股間を隠すが、腕を引き剥がされ腿をソンリェンの左手と膝で強く開かされ閉じることもできなくなった。 「隠してんじゃねえよ」  この体勢はどうあがいても、ソンリェンの眼前で漏らすということからは逃れられないようになっている。しかも今トイはソンリェンを咥え込んだままだ。 「……ソンリェン」  嘘だろう、と強張る首でソンリェンを見上げる。やけに据わった目をした青い瞳は狼狽えることなく逸らされない。 「なんで俺が、てめえの都合で抜かなきゃなんねえんだよ。いいからさっさと出せ」  低い声は本気だった。 「っや、ぁ……! やだう、そ──ぁ、ああ、あ」  促すように本格的に揺さぶられ始め泣き声が漏れる。たまらず片手を壁について尿意に耐える。確かにシャワー室には排水溝があるが、ここはそういうことをする場所ではない。  それ以前に貫かれたままソンリェンの目の前で出すなんて絶対にしたくない。ソンリェンだってそんな光景見たくないはずだ。最悪な趣味を持つロイズに強制されて漏らしたことはあったが、ソンリェンにそういった性癖はなかったはずなのに。  それなのにソンリェンは躊躇なく胎内を激しく穿ってくる。しかもトイの腹を強く圧迫しながら。完全に出させる気だ。油汗がだらだらと額を零れ落ちる。 「やっ、む、無理……!」  自分の腹部が、小刻みに収縮を繰り返しているのが見えた。ソンリェンの視線はじっとトイのそこに注がれていた。生理的欲求に抗えずはくはくと開閉するトイの鈴口に。  嫌で仕方がないのに限界まで張り詰めている膀胱にトイはぞっとした。このままでは本当に漏らしてしまう。 「いいから出せ」 「い、やだ……!なん、なんで、……!」 「見せろ」 「ダメ……ねが、でちゃ、でちゃぅ、てッ、ぁッ」 「見せろって言ってんだ、お前は俺のもンだろうが」  ぐい、と後ろから顎を掴まれて、下腹部を強く圧迫されて仰け反る。 「全部、見せろ──トイ」  柔い耳たぶをがりと噛まれ、排泄を促すよう小刻みに穿たれる。ぐぐっと一際強く押され、トイは溜まりに溜まった欲求を弾けさせてしまった。 「ッ、も、ひ゛──」  じょわっという生暖かい音と共に、黄色い放物線が弧を描く。  一度解放してしまった熱を止めることは不可能に近かった。むしろ出さないように力を籠めれば逆に溢れてしまう始末だ。髪を弱々しく振り乱しながら、トイは放出の解放感に悶えた。 「ひっ、ひぃ……やぁ、ぁ、」  あっと言う間に浴室に尿特有の臭いが充満し、シャワー室のタイルが黄色に染まった。ちょろちょろと排水溝に流れていく液体はソンリェンの膝の周りをも汚していく。ぎりぎりまで堪えていたぶん排尿は勢いがなく、長かった。  ソンリェンは何も言わずトイの哀れな痴態を眺めていた。トイの排泄の音とソンリェンが腰を打ち付ける音だけが狭いシャワー室に響き、それにより一層羞恥と屈辱を煽られる。 「はぅ、ああ、……ッ」  頬にソンリェンの金色の髪がぱさりと落ちてきて、ソンリェンにじっくりと排泄の瞬間を見られていたという事実をまざまざと見せつけられ恥ずかしさのあまり嗚咽を零す。  トイはぶるぶると震えながら、膀胱内に残っていた最後の一滴まで漏らしてしまった。  くたりと力を失いソンリェンに寄りかかる。ソンリェンがやっとシャワーのノズルをひねり、トイの排泄したそれを温いお湯で流し始めた。  たった一度の排泄行為でこんなにも疲れてしまった。涙で潤んだ瞳で排水溝に吸い込まれていく黄色い液体を眺める。ソンリェンがシャワーを止めた。ぴちょんと水滴が落ちる音だけが響く沈黙が耳に痛かった。 「……汚ねえな。人前で盛大に垂れ流しやがって」  ぐいと顔を上げさせられて、いつも通りのソンリェンの罵りが始まった。 「ほんと、てめえは弄ばれるしか能のないバカだな。突っ込まれながら俺の前で漏らした感想はどうだ? こんなんされてもどうせ感じてんだろ? 股もびしょびしょじゃねえか……あんなちんけな育児院で働くよりもこっちの穴貸し出して働いた方が稼げるんじゃねえか」  なのにどうしてだろうか、心ここにあらずのように聞こえるのは。  ソンリェンの罵声には普段の覇気が感じられなかった。適当に口に乗せているだけというか、いつものように心に鋭い棘が突き刺さってこない。 「てめえなんか───」  ふつりと、ソンリェンの言葉が途切れた。  どうしたのだろうとソンリェンの唇に焦点を合わせると、淡々とトイに対しての辱めを列挙していた口が強く引き結ばれていた。  美しい顔がだんだんと近づいてくる。降りてきた唇に思わず目を強く瞑ると、瞼の上にちゅ、と濡れたものが押し付けられた。  え、と目を開こうとすれば、今度は反対側の瞼にも同じ感触が。しかも一度ならず二度までも。羽のように軽いリップ音と共に最後は額にも唇を落とされて、トイはぽかんと呆けながら目を開いた。 「クソ……甘え」  やけに熱っぽい青がトイを見つめていた。  湯気のせいかソンリェンの頬はほんのりと赤くなっている。天井から差し込む薄っすらとしたオレンジ色の光が反射して、ソンリェン自身が熟れた青い果実みたいに見えた。 「甘すぎんだよ。何がうれしいだ、能天気なアホ面晒しやがって」  それは見覚えのある光景だった。そうだディアナだ。彼女も今日こんな風に、照れの混じったぴかぴかした瞳でトイを覗き込んできたのだ。それに赤い頬は、初めて出会った時の彼女の姿を彷彿とさせる。 「本当に、てめえは」  どうかしてる、いくら瞳の色が同じだからと言ってソンリェンとディアナの瞳が被って見えるだなんて。ディアナに対する酷い侮辱だ。  ソンリェンは身勝手でとても酷い男で、ディアナは大切なトイの友達なのに。  だから幻聴かと思った。 「──かわいいな」  声を失うとは正にこのことだった。耳を疑う。 「かわいいな、お前は」  愕然としながら、ソンリェンの台詞を咀嚼する。    かわいい。誰が。トイが、だろうか。  今のはあのソンリェンから放たれた言葉なのだろうか。聞き間違いであって欲しかったのだが、今トイの目の前にいるのは紛れもなくソンリェンだけで、ソンリェン以外にトイをかわいいと称する酔狂な人間はこの場にいない。つまり今のは、幻聴などではない。 「また、買ってきてやっても、いい」  ぽかんと開っきぱなしになっている唇をゆるりとなぞられる。  ソンリェンの言う買ってきていいものがふわがしであることには気が付いたのだが、ソンリェンの先ほどの発言ばかりが頭の中でぐるぐる渦巻いていてそれどころではなかった。  トイが、かわいいだなんて。  やはり今日のソンリェンは、おかしい。  ソンリェンも似つかわしくない発言をした自分自身をらしくないと思ったのだろう、硬直したトイから直ぐに目を逸らすとトイを壁に押し付け再度腰を穿ってきた。まるで先ほどの発言を振り切るように。  「ぁッ……、ぁ、ああん、んあぁ……!」  その後はもう、今まで通り言葉もなく。  結局シャワー室で事が終わった後、ベッドまで連れて行かれ正面から組み敷かれた。  帰り支度を始めたソンリェンの背中を見つめながら、下がり始めた瞼にトイは安堵した。  意識を保ったままだったらどんな顔をして部屋から去っていくソンリェンを見送ればいいのかわからなかった。  あとは重い身体に身を委ね、泥のように眠り夜中か明け方に目覚めるだけだ。  今日ばかりは、激しく犯されたことに心の底から感謝した。

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